小谷城の戦い


俺の力が目覚めたあの日から数年…とか言うとなんか中二病臭いんだけども。要約すると姉川の戦いから約3年経ったわけだ。その3年間なにもこの日が来るまでぐーたら食っちゃ寝していたわけではない。山奥とかでこっそりモーションの確認とか技の出し方に慣れるため修行みたいなものをしていたおかげで、恐らく階級は10くらいまで上がっているはず。根拠?チャージ攻撃のモーションが増えたから。断じてメタくはないぞ。

それでも年がら年中修行漬けというわけでもなかった。俺のことを面白いおもちゃか何かと勘違いして変になついてきた高虎に何度か振り回されたものである。なんなのあいつ友達いねえの?まだここでは会ったことねえけど吉継と仲良しなんじゃなかったっけ?まあそう思ってしまうくらいには絡んできやがるので、俺としても非常に悩んだものだ。


どれだけ親密度を上げたって、歴史は変えられないから。



「はあっ、はあっ…くっ、そ…!」

刀を下ろして高虎を見る。位置のせいで必然的に見下す形になるわけだが、それすらも怒りでしかないだろう。ボロボロなくせに、片膝をついているくせに、それでもなお俺を殺さんと睨みつける鋭い目。“なまえ”である俺と接する時とは大違いだ。紹介したい友がいると言っていたな。きっと今お前のそばにいる大谷吉継のことだろう。それを聞いたのが数ヵ月前で、それからは再び攻めてきた織田軍との睨み合いが続いていたので会うことが叶わなかった。

そして今日、ようやく久々に会うことができた。なのに悲しいかな今回もまた敵同士なのだ。

「…撤退しろ。もう浅井に勝ち目は」
「黙れ!!その、ふざけた面ごと、叩き斬って…ぐうっ…!」
「……お前なら、もう気付いているだろう」

修行と同時進行で練習した変声術…と言っても出来うる限り普段より低く低く話してるだけだけど。それを使って吉継に撤退を促す。俺なんかよりも何倍も賢いお前なら、たとえ俺みたいに未来を知ってなくても分かるだろ。時代の流れ。浅井の結末。それを知っててなお高虎と一緒に織田に刀を向けてるのは俺も知ってる。けどお前ならこのあとどうするべきなのかも、俺にすでに戦意がないことにも気付いてるはずだ。だからこそこれ以上向かってこないのだろうと面越しに白頭巾の男を見つめる。

高虎、お前は何度も話してくれたな。長政の掴んだ天下を一緒に見ようって。嬉しそうに楽しそうに、さながら夢見る少年のように語ってくれてた。ゲームしてる時も思ってたけど、一途なんだよなあ。粉骨砕身だっけ?体現してるよなほんと。前世も含めてもう40年近く生きてる俺には眩しすぎる。



「ご、」

ごめんな、と言いかけて、目を見開いた。何が“ごめん”だ。バカか俺は。こいつらはみんな明日をも知れぬ身で必死こいて戦ってんのに、それを、何が、

二人を置き去りにして、足早にその場を後にした。





「……行こう、高虎。もう火の手がそこまで」
「あいつ…あいつにも、約束、したんだっ…俺は!」
「…高虎……?」














ごうごうと燃え盛る小谷城を少し離れた場所から見つめる。さっきまであそこの中には俺もいて、他にもたくさん人がいて、武士だけじゃなくてきっと戦えない女の人とか、子どもとかも、いたんだろうな。はあー、やるせなっ。

(高虎とか吉継とか、ちゃんと逃げ切れたかなあ)

あ、あとたしかお市様。なんかお市様のことは様付けで呼んじゃう。まま、とりあえずこの三人には生きててもらわねえと困る。吉継なんかこれで死なれたら俺三成に殺されるわ。まだ会ったことねえけど俺あのキャラ結構苦手なんだよな…左近とか吉継とかよくマジギレしねえで付き合えるよなってストーリーとかムービー見る度思ってたもん。俺だったら絶対すぐキレるわお前そういうとこだぞコラァ!つって。

けど、このまま生き続けていく限り三成や左近を含めさらにいろんなキャラに出会っていくだろう。そして、いろんなキャラの生き様を見届けていくことになるんだろう。きっと今回みたいに、やりきれない思いもするだろうし、いろんな奴らに恨まれるんだろう。だけどこれはきっとこの世界に転生させられた俺への試練の一つなんだ。もううじうじするのは今回で最後。必死で生きてるあいつらに失礼だもんな。心身ともに、もっともっと強くならねえと。この調子で生き延びて、目指せ大坂夏の陣参戦。道のり果てしなくなげえそう考えると高虎ってマジすげえなあ…

ふと背後から人一人分の気配を感じた。変身中はオフの時と違って気配察知能力までついてるのか…いやもしかしたら今回の戦でまた階級上がったのかもしれねえな。

「お前さんも来てくれとったんじゃな」

ゆるりと振り向くと、そこにいたのはなんと秀吉だった。少し驚いたが、バレないように落ち着いて静かに頷いた。よかった、秀吉にも死なれちゃ困るからな。

「っと、姉川での礼がまだじゃった…あの時は本っ当にありがとうな!おかげでわしは今日この時まで生き延びてこれた!」
「いえ、そんな…私はやるべきことをしたまでです」
「織田の人間…ではねえな。お前さん、一体どこの回しもんじゃ?」
「……一人身です。武者修行をしながら各地を渡り歩いておりまする」

なんだなんだ、なんか疑われてんのか俺。でもマジでどこにも仕官してねえしなあ…間違ったことは言ってないぞ、うん。

「なるほど…そういや、ねね…や、うちのもんから聞いたが、お前さん、浅井の若武者を二人逃がしたそうじゃな」
「!」

高虎と吉継のことだ。おねね様見てたの!?マジ!?いつから!?全然気付かんかったわ気配察知能力とは何だったのか。どうしよ、浅井側の生き残りとして捕らえられる感じ?ピンチですなまえくんピンチ助けて神様!

「はっはっは!なあにそう構えんでええ!何も責めとるわけではない」
「え?」
「未来ある若者を生かすのは当然じゃろ。例えそれが敵軍の武士だったとしてもな。生きていればいつかは敵同士でも分かりあえる道があるかもしれん。じゃが、死んじまえばそれまで」
「………」
「本当は、長政殿にも降伏して欲しかった…ま、過ぎたもんはもう戻らねえ。お市様にはなんとか降伏してもらえたし、それだけでも十分じゃ」

そう言うわりには、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしている秀吉。きっと本気で長政のことも助けたかったんだろうな。たしかゲームでも最後まで説得してて、それでも信長に殺されてたはず。悔しいんだろうな。それまで救おうとしてた相手を目の前で殺されたんだろう。それでも切り替えて前へ進もうとしてるんだろうな。

「…強いですね、秀吉様は」
「わしがか?ははっ、そんなこたぁねえ、わしは弱い。じゃから、支えてくれるもんが必要じゃ」

す、と手を差し伸べられた。おや、この流れはもしや。

「聡いお前さんなら、きっと上手くわしを支えてくれると思う。どうじゃ、わしに付いてきてくれんか?」
「…ありがたいお言葉ですが、私はまだ未熟ゆえ、どこかに仕えようなどとは考えておりませぬ」
「ありゃ、フラれちまったか」

からからと笑う秀吉はゲームのままのキャラで、あーやっぱ好きだなあと再確認。改変云々のしがらみがなければ一つ返事で豊臣家に仕官してたのにな〜くそ〜惜しいことしたぜ。申し訳ございませんと返せば気にするなと返ってきた。懐の大きさよ。

「けど、まだ時間はある。一応考えておいてくれな」
「(あるぇ諦めてない感じ…?)はあ…まあ、じゃあ一応…」
「ははは!それでええ。また戦で会うたらよろしくな!」

ひ、人懐っこいなこの人だけはほんま…まあ絡みやすいからいいけど。次の戦は多分長篠だな。たしか滅亡寸前の武田軍を鉄砲隊で…あああああ思い出しただけで疲れてきた。まだまだ時間あるだろうし、またしばらく修行漬けの日々が始まるのであった。成長した烏天狗武将なまえさんの活躍、乞うご期待!

さてそれじゃあ俺もそろそろ帰るか〜と思ったがいや待てよ小谷城ぎゃんぎゃんに燃えてんだけど俺が部屋借りてる長屋大丈夫?燃えてない?真っ黒焦げになってたらどうしよう野宿不可避じゃん…と、頭を抱えそうになったその時、あ、と秀吉が言葉を発した。

「そういやお前さんの名は?」

名前…あ、しまったこの時の名前考えてなかった!馬鹿正直に本名話すとこだったあっぶね!またおっちょこちょい発動するとこだったわ。

「……からす、とでも呼んでいただければ」

こうして謎の旅武者、烏天狗の“からす”が爆誕したのであった…ネーミングセンス皆無とか言うな。





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