夢魔な黒田雪成と後輩


ギラギラと熱の籠った熱い眼差し。肌という肌すべてを食もうとするふっくらした唇。いやらしい音を立てて体中を舐め回してくる舌。時に甘く時に痛く噛み痕をつけつくる歯。全身をくまなく愛撫してくる大きな手。逃がさないようにと絡み付いてくる足。

いやだやめてと抵抗しても今まで体験したことのないような快楽の前では意味を成さなかった。気持ちよすぎて頭がふわふわする。もう何もかも投げ出してこの人にされるがままでいたい。そう思わされてしまうほど、夢中になる。

「気持ちいいか?なまえ」





…という、まさしく文字通りの淫夢を見るようになったのは最近の話ではない。いつからか、数週間に一度、一週間に一度、三日に一度…と頻度が上がり気付けば毎日見てしまう始末。夢は己の秘めたる欲を具現化するとどこかで小耳にはさんだがそれにしたってこんなにえっろい夢ばかり見るだろうか。いや高2の童貞なんだしそういうことに盛んな年頃だと言っても責められはしないはず。しかし。しかしだ。相手が悪い。なんたって知り合いだしそれどころか男の先輩なのである。俺にそういう趣味は毛ほどもないのだが夢の中の先輩はなんとも抗いがたい魅力で俺を虜にし気付けばあれよあれよと最後まで致しているのである。夢にしたって恐ろしい。しかし本人に相談するわけにもいかずこうして誰にも言えぬまま恥ずかしいやら恐ろしいやらといった気持ちを悶々と抱えたまま部活に向かうのも最近の話ではない。どうしたものか。

「よう。最近なんか浮かねえ顔してんなお前」

大丈夫か?なんて言うあんたのせいですよ黒田先輩。そう言えれば少しは楽になるのだろうが、現場はあくまで俺の夢の中なのだ。黒田先輩からすれば夢とはいえ気分のいい話ではないだろう。俺だってそうだ。先輩としては普通に尊敬してるし好きな部類に入る人にぶち犯されてる(しかも満更でもない)夢を毎夜見させられてはたまったもんじゃない。変な気を起こすことはまあ多分ないだろうけど、逆に先輩と会うのが気まずくなってくる。変に思われ出しても仕方ない。

「大丈夫です。ちょっと夜更かししちゃって…」
「ふーん…ま、体調に響くほど無茶すんなよ」
「はい。ありがとうございます」

ほら、この人はこういう人なんだ。クラスメートだって気付かないような些細な変化に気付いてくれて、こうして気遣ってくれる。面倒見のいい優しい先輩だ。そう思えば思うほど、あんな夢を見てしまうことが本当に申し訳ない。犯されてる側は俺なんだけど黒田先輩だって男と寝る趣味はないだろうに。犯されてる側は俺なんだけど。

また今夜もあの夢を見てしまうのだろうか。そう思っただけで憂鬱になる。今日も鬱憤を晴らすごとく目一杯走り込んでやろう。そう意気込んでロッカーの取っ手に手をかけたら、そういえば、と先輩が言葉を続けた。なんだろうと再び先輩の方へ視線を戻す。

「気持ちよかったか?なまえ」

ん?