透明人間な荒北靖友と同期


「それあれじゃないの!?ストーカーってやつ!」

最近そこはかとなく誰かからの視線を感じると幼なじみの女子に相談したところ即答でそう叫ばれたので速攻で口を塞いだ。公の場でなんつーことを!声のトーン考えろこのやろう!俺も若干そうなんじゃないかって思ってたけども!パシパシと俺の手を叩く高木(女子の名前)を無視して周囲を見渡す。大丈夫か、誰にも聞こえてないか。しかし俺の不安も他所に周りは先程までと変わらずワイワイと賑わったまま。はあーよかった気付かれてない多分。

「バッカお前大声で叫んでんじゃねーよもれなくクソ自意識過剰マンのレッテル貼られるところだったじゃねーか!」
「ぶはっ…!だ、だってそれってそういうことじゃんだからあんたも不安になって相談してきたんでしょーが!」
「そうだけど場所を考えろ!」
「あんたこそ!」

ぐぬぬぬ…ああ言えばこう言いやがってほんと可愛いげのねえ女だ。ここが教室でなければデコピンの一つや二つ食らわせていたが如何せん女尊男卑な女子連中が多いため手が出せない。暴力男の異名を貰うくらいならまだクソ自意識過剰マンの方が…いやどっちもイヤだけど。

この話が本当にただの俺の自意識過剰だったならどれだけよかっただろう。残念ながら普段日常的に口喧嘩をしている高木に相談してしまうほどには参っているのだ。だって絶対誰かに見られてるもんなんなら今だって微力ながら感じるんだもん多分クラスメートだとは思うんだが誰だかまったく見当もつかない。モテ期かなあと思ったが恥じらう乙女のごとく見つめるだけで幸せ…なんて儚い系女子はうちにはいないはず。ボコられるから声に出して言えないが。もう一度ちらりと周囲を伺うが、やはり俺を見ている人間の姿は見えない。怖ェ。

(うん?)

不意に服の裾を引かれた。そちらへ視線をやったがあるのは開きっぱなしの窓だけ。俺の席は廊下側なので、どうやら廊下から悪戯されたらしい。何奴、とそのまま窓から身を乗りだし下を見ると、不適な笑みを浮かべて座っている悪友と目が合った。

「何してんだ暇人」
「ッセ。廊下歩いてたらアホ面見えたからちょっかいかけただけだヨ」
「そんなにアホ面なまえくんに構ってほしかったのか顔に似合わず可愛いとこあんじゃん荒北」
「アホ面の自覚あったのかヨさすがなまえチャン」
「チャン言うな」

何が楽しいのかへらへら笑う悪友こと荒北靖友。去年同じクラスになって以降絡むようになったんだがまあ〜〜口の悪いこと手の早いこと!それでも今こうして馬鹿みたいなやり取りを出来るくらいには仲が良いんじゃなかろうか。たまにベプシ奢ってくれるしテス勉付き合ってくれるし、たまに怖がられてるヤンキータイプだけど良い奴だと思う。

「ったくお前と話してたらIQ下がるわ」
「ただでさえ低いのになァ」
「だーまーれ。なあ福富こいつ連れて帰ってくれよー」

ちょうどうちのクラスに来ていた福富に無茶ぶりをしてやった。たしか荒北と同じクラスだったはずだし、こいつは奴には頭が上がらない。ズルズル引きずられて帰っていくまぬけな姿が目に浮かぶぜ。

「…何を言っている」
「へ」
「荒北は今日は休みだ」
「はあ?お前こそ何言ってんだよ。あいつならここに」

いるだろ、と指差した方にいたはずの荒北の姿はなかった。あれ?

「あんたさっきから何一人言喋ってんの?」
「は、え、いや、荒北…あ?」
「なまえ……あんた、まさか幻覚見るほど疲れて…」

とんだ勘違いをしている高木にも不可解そうに俺を見つめる福富にも荒北の姿が見えなかったのだろうか。いやそんなはずは、だってあんなにはっきり話して、いや、でも姿が…はあ?なんじゃそら。意味がわからん。マジで疲れてんのか俺。

自分自身の行動すら疑い始めた頃、悩みの種である謎の視線がまた俺を射抜いていることに気付いて頭を抱えたくなった。