(新開の幼馴染み)



たしか今日は練習がオフだと言っていたであろう自称鬼の幼馴染みの部屋へ猛ダッシュで突撃した。すまん寮長今日だけは見逃してくれ。だって、だって…!

「へっへーーーーーーーん見て見て見て新開見て見てじゃじゃじゃじゃーん!」
「どうしたなまえ、いつも以上にテンションおかしいぜ?」
「ちょ、それ遠回しにいつもテンションおかしいって言ってる……じゃなくて、ほれ」
「……みょうじくんへって書いてるな」
「ラ ブ レ タ ー ですよ〜やべーめちゃくちゃ嬉しいラブレターとか生まれてはじめて貰えたほんと嬉しいテンションやばい生きててよかった」
「テンションがヤベーのはいつものことだろ」
「ほっとけ!いやーでもさ、ほら、いつもなら『これ、新開くんに…』みたいな感じでお前への差し入れやらラブレターやらを受け渡すだけだったのにさ、今回はちゃんと、ちゃんと…お、俺宛…!」
「ヒュウ、泣くほど嬉しいのか」
「うんそれもあるけどお前みたいなほぼ完璧なとこしかない幼馴染みを持ってしまった俺の今までの可哀想な人生を思い出してちょっと悲しくなった」
「おいおい完全無欠だなんてやめてくれよ」
「そこまで言ってねえし」
「で?誰から?」
「無視?なんか今日冷たいなお前…んー…封筒には書いてないなあ…」
「手紙読んでみろよ」
「言われなくても読みますよ〜ふはーニヤニヤが止まんないどうしよう楽しみ〜誰だろ誰だろ…」

失礼しまーすと封筒を慎重に開いて中身を確認!ピンク色のこれまた可愛い便箋だ!さてさてお名前は……

「……ん?誰だった?」
「……わ…わからん…」
「え」

なんと、女子と思われる相手の名前がない。というかこれ、

「…なまえ?」
「…………こ、これ……」
「……宣戦布告」
「わっ、おい!音読するな!」
「みょうじくん、いくら新開くんの幼馴染みだからといって、これ見よがしにベタベタして見せるのは明らかな敵意を感じさせます。よってここに新開くん親衛隊一同からの」
「やめてええええええええええなにこれラブレターじゃないじゃんただの果たし状じゃん可愛い便箋使う意味ないじゃんってか俺こいつとベタベタした覚えねえええええええええええ!!」

後ろからラブレターもとい果たし状を音読しだした新開の口を止めるために手紙を床に叩きつけた。ややこしいわ!可愛い丸文字で書かないで墨と筆使っておどろおどろしく書けやもしくは殴り書き!いやそれはそれで怖いけども!あと新開爆笑しすぎ!

「はあっ…なんだよそれ…やっと俺の時代来たと思ったのにあんまりだ…しかも結局新開絡みだし…」
「悪いななまえ、お前の時代全部かっ食らっちまって」
「ドヤ顔うぜー…」

しかし、ある意味その通りだ。このままこいつとつるんでいれば俺の輝かしい青春はすべてこいつのせいで台無しになってしまう。幼馴染みだからって一緒にいすぎるのもどうかと思うし、これを機に少し離れてみようか…。

「…よし、俺は決めたぜ新開」
「俺も決めたよ、なまえ」
「えっ、なにそれパクんなよ」
「今までかっ食らってきた分、返していかなきゃなあと思って」
「え!」

と、いうことは、まさか新開も同じことを思っ…

「俺が責任もって、これからもおめさんの面倒見てやるよ」
「…………うん?」

あれ、俺が思ってた答えと違う。というか、なんだ、どうして、俺は押し倒されているんだろうか。

「……し…新開、くん…?」
「いやー、俺これでもちょっと焦ったんだぜ?」
「へ」
「ずっと俺のだったのに、ついに盗られちまうのかって」

おかしい、新開の目が笑ってない。それに声が暗い。気のせいじゃない。しかもお前、その口振りだとさ、それ、

「結局勘違いだったし、いつもみたいに笑って流そうと思ったんだけど…やっぱもう、それじゃダメだよな」

困ったように笑うその顔が赤いのは俺の勘違いだと思いたい。

「……えっと…新開ってさ、」
「ん?」
「…………お……俺のこと、好きなの…?」
「ああ、好きだぜ?」

まるで挨拶を交わすかのようにさらっと言われたその言葉に、俺自身ひどく動揺しているのがわかった。

「ずっとずっと、好きだった。好きだったから我慢してた。けど、ごめん」

もうそんな余裕もなくなっちまった。そうして重ねられた唇が熱くて柔らかくて、もうなにがなんだかわからなくなって、とりあえず新開の整った顔面めがけて手加減ゼロのグーパンを放っておいた。




(その後も続けられた強烈すぎるアプローチに結局俺が折れてしまったのはまた別の話)



160921