(ありそうでなかったもしものお話)
(まだ誰もくっついてません)






「彼女ほしい」
「オメーもうそれ口癖だなァ最近」
「女の子とキャッキャウフフしたいのに…してたのに…ほんの一年前ぐらいまでは日常茶飯事だったのに…あんの…クソ後輩のせいで…!」
「ここんとこアプローチひどくなってきてっしなァ」
「知ってんなら早く止めてくれる!?お前曲がりなりにもあいつの先輩だろチャリ部通して完全上下間系出来上がってんだろ先輩の威厳フル活用であいつどうにかしろよお願いしますマジで」
「オメーも先輩っちゃ先輩だろうが」
「俺とお前とじゃ訳が違うだろ多分」
「違いがわかんねえヨ」
「つーか聞いてくれる?とにかくあいつ振り切る口実作るために可愛い女の子片っ端から告ってたんだけど全部フラれたの俺」
「ダッセ」
「うるさい黙れお前なんか告ろうとした時点で逃げられるだろ」
「よし右と左どっちの頬ぶん殴ってほしいか選べ」
「待て待てまだ話の途中だから。なんでフラれたのかが重要なんだよ理由聞いてびっくりしたっつーか気絶しそうになったんだけど、あいつもう俺が自分とデキてるみたいなクソみたいな噂流してるらしいんだよ信じらんねえどんな育て方されたらあんなこと出来んだよ信じらんねえ」
「ハッ、なるほどネェ。完っ全に囲まれたってワケ。御愁傷様ァ」
「やめろまだ終わってねえ!まだ、まだ逃げ切る方法がどこかにある、はず…だ…」
「目が完全に死んでんぞオメー」
「はあああああ……もっと、こう、強い女子と付き合うべきか……某霊長類最強女子とか……もしくは卒業まで耐えるべきか……」
「…………」
「いやでも卒業まであと一年あるとか無理無理無理無理考えらんねえ遠すぎ…………おい聞いてんのかよ」
「聞いてる」
「なら一緒に考えろよ俺のリア充復帰大作戦」
「……一個、いい作戦あんだけど」
「えっ、マジ!?」
「マジ」
「んだよあるなら早く言えよ荒北のくせにためてんじゃねえよまったくよ〜さすがは俺の大親友だぜ。で?作戦は?」
「作戦っつーかァ、オメーと付き合うのにちょうどいい人間が一人いる」
「え、同クラ?」
「おー。しかも黒田より強ェし、」
「そんな女子いたのかよ」
「噂が嘘っぱちってことも知ってるし、」
「おう?」
「付き合い長ェし、」
「長い?え、誰?マジでわかんね…」
「オメーのことよく理解してる、つもり」

心当たり無さすぎて、ついケータイから荒北の方へ視線を移した。そしてそれが失敗だったとすぐに気付いた。

「…………荒北?」
「んだヨ」
「………いや……いやいやいや、無いから」
「はあ?」
「無い」
「なにがだヨ、意味わかんねー」

必死に隠しているつもり、なんだろう。それでも赤い顔が隠せていない。つーかそうでなくてもそこまで言われて気付かねえほど俺が鈍感なわけねえだろ。

「……荒北、冗談なら今すぐ俺のこと殴れ」
「……なんでそうなるわけ」
「いつもならそろそろマジにすんなよバァカチャンがとか言いながらつっこむだろお前」
「…………」
「ちょ、そこで黙んなよ…あー、もう分かった。降参。俺が悪かった」
「…………」
「だからさあ、もう、その顔やめろって。明日メロンパン奢るから」
「……いらねー」
「チッ、ハンバーグ定食が正解だったか」
「みょうじ」

別に腕を捕まれているわけでも、壁に押さえつけられてるわけでもないのに、どうして動けないんだろうか。

「……俺だって、信じたくねえけどさァ…」

なんだよ、なんでそんな、黒田みたいな顔してんだよお前。こっち見んなよバカ野郎。ブサイクが移るだろボケ。

この変な空気をぶち壊すための言葉は全部喉につっかえて出てこない。なんでこんな時に限って来ないんだよあいつ。早く来てくれ。じゃないと、俺、

「けど、最近すっげー思う。黒田にも、誰にも渡したくねえって」
「っ、も、黙れお前」
「もう俺にしとけよ、みょうじ」

ああもうなんでこんな心臓うるせえんだよ気持ち悪い!!





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