※ほとんど歌詞からの自己解釈&ご都合主義
※直接そういう描写はないけど
雰囲気がどことなく裏いので注意
※黒田×モブ女子描写有









柔らかい背中への衝撃と、心地よい重みと温かさと、落ちてきた髪の匂いと、心底恨めしそうな暗い暗い目。そのどれもが愛しくて隠しもせずに笑みを深くしたら、目がぐっと細められた。

「今日はどうした?なんで怒ってる?」
「…………」
「……なんだ、昨日と一緒?」

黙ったまま顔から首もとへと移動した鋭い視線。ああそうだ、今日はそこに付けられたんだ。昨日は手首。その前は鎖骨。毎日代わる代わる見目麗しい女を抱いては痕を付けさせる。よぉく見える位置に。それに飽きた頃には鼻が曲がりそうな甘ったるい匂いを付けさせて、またある時には口紅が付けられた服を着替えもせずに。そうして情事の跡を隠しもせずに、毎日毎日なまえのもとへ行く。屋敷の地下の奥の牢。誰も近付けさせない小さな小さななまえの部屋。

「同じようにしてほしいんだろ?」

俺の肩を押さえつけている手が、そのまま爪を立ててきて、握り潰すように力を込められたのが分かった。

「お前なんか、死ねばいい」
「死んだら誰より悲しむくせに」
「上の馬鹿女共と一緒にするな」
「その馬鹿女共が羨ましくて仕方ないくせに」
「……お前なんか、」
「いつも言ってるだろ?」
「っ、」

触れた頬はついさっきまで抱いてた名前も知らない女よりもかたくて冷たいのに、まるで吸い付いたかのように離れない。

「正直に言えよ、俺が好きだって。俺が欲しいって」

いつだったか、古ぼけた書庫で見つけた胡散臭い一冊の分厚い本。面白半分で開いてみると現れたのはこれまた胡散臭い自称“悪魔”。興味本意で契約を結んだその瞬間から、女という女すべてを自分の物に出来る力を手に入れた。最初は必要ないし、むしろ面倒だと思ってすぐに後悔した。

「そしたら、お前の望む通りにしてやる。なんだって叶えてやる」

けれどその力の対象は女だけではなく、例外があった。

「俺のこと、好きなんだろ?オニイチャン」

血縁関係が近ければ近いほど、俺が愛しいと思えば思うほど、その力は強さを増して、

「……お、前、なんか…」

深く激しく歪ませる。

「…っ…お前なんか、嫌いだ、大嫌いだ」
「…………」
「お…俺のこと、見てくれない、お前なんか、きら…っ!」

たまらなくなって顔を引き寄せてキスをした。ぼたぼた落ちてくる涙も、しがみついてくる手も、俺の気を引きたくて女みたいに伸ばした髪も、気持ちを悟られたくなくて嫌いだと吐く口も、分かりやすく嫉妬する姿も、どれもこれも可愛くて愛しくて仕方ない。全部この力のせいだとしても構わない。ずっとずっと欲しかった。目の前のなまえの姿はまるで以前の俺そのものだ。俺が欲しいって、俺が好きだって全身で訴えてるのがまるわかりでゾクゾクする。もうここ最近はどうにかなりそうで、我慢できなくてキスまではしちまった。でも、それだけ。

「……嫌いなら、これ以上してやらない」

冷たく吐き捨てて体を押し返せば、途端にまた泣きそうな顔をする。我慢比べだ、なまえ。お前が俺に堕ちてからずっと続いてる馬鹿みたいな勝負。そうやって嫌いだって言うんなら俺も好きだって言ってやらない。これ以上触れてやらない。さあ、どっちが先に耐えられなくなるだろうな。俺はまだ余裕があるけど、お前はそうじゃないだろ?早く素直になればいいのに。素直に全部さらけ出してくれれば、俺だってもうなにも我慢せずにお前を求められるのに。ああ、でも、そうなった時のお前はきっと想像出来ないくらい可愛いんだろうな。その時が楽しみだ。





(あの男が現れて全てが壊れるまで、あと少し)



160830