(インハイ後、一時帰省中)





「セミが鳴いてるなあ」
「鳴いてるネェ」
「もうほんと夏って感じ…暑いなあ…」
「窓閉めてエアコンつけっかァ?」
「んー…」
「…そういやお袋がジュースあるってェ」
「やった。いただきます」
「オレンジジュースとォ、リンゴジュースとォ、ぶどうジュース」
「やすはどれにする?」
「あー…………ベプシ」
「ぶはっ、だと思った。じゃあ俺もベプシ」
「ん」

それまで俺の体を包んでいた腕や体が離れていった。少しだけ暑さが和らいで、代わりにほんの少しの寂しさ。パタンと閉められたドアを一瞥してから、ゆるりと部屋を見渡す。久々のやすの部屋。なにも変わってないなあ。俺のとこもそうだったけど、やすのとこもおばさんがちゃんと掃除してくれてたんだろうなあ。寮に戻るのは明日だから、このあとは家に帰って、母さんや父さんたちとたくさん話しておかなきゃ。普段から連絡は取り合ってたけど、直接話すとなるとまた別だし。

「お待たせェ」
「ありがとう」

戻ってきたやすから受け取ったグラスはとても冷えていて気持ちよかった。頬に押し付けるとひんやりする。氷最高。

「……んー」
「美味しいネ」
「美味しいけどピリピリする」
「お子ちゃま」
「ひどい」
「はー……暑いネェ」
「暑いなあ」

暑い暑いとうわ言のように呟くくせに、体に巻きつかれてる腕を振りほどこうとは思わないし、やすだって離れようとしない。あべこべだなあ。

「……なまえ」
「んー?」
「好き」
「んー、俺も好きー」
「ほんとにィ?」
「今さら疑うのか?」
「疑ってねーヨ。意地悪言ってみただけェ」

ごとりと机にグラスを置く音が響いた。かと思えば俺のグラスも簡単に奪われてしまって、そのままやすのグラスの隣へ。

「もういらないの?」
「今はこっち」
「む、んぅ…」

軽く押し付けられた唇は、ベプシのせいで少しだけ冷たかった。でも、俺を見る目も抱きしめてくる腕も密着する体も、唇にかかる吐息も、

「……熱い」
「熱いネェ」
「離れる?」
「まさか」
「熱いなあー」
「もーっと熱くしてやろうかァ?」
「じゃあエアコンつけよう」
「リモコンどっか行ったァ」
「ええー」
「いいじゃんこのまんまで」
「汗かいて気持ち悪い」
「俺が全部舐めとってあげるけどォ?」
「それはそれで恥ずかしい」
「わがままだネェなまえチャン」
「やすこそ今日は甘えん坊だな」
「んなことねーし」

ちゅうちゅう俺の首に吸い付くやすが、まるでじゃれてくる猫みたいだったから、珍しいなあ可愛いなあとそのまま体を預けて目を閉じた。あー、あつい。




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