短編 | ナノ
「げぇっ、出たな顔面偏差値最下位荒北」
「黙れ性格ブスみょうじ」

ちっ、授業明けから嫌な奴に会っちまった。俺が言葉を発した途端、ただでさえブサイクな顔がさらにブサイクになっていった。見るに耐えない。

俺は小さい頃から老若男女問わず綺麗な人が好きだ。東堂なんかものっそいジャストミート。まああいつは中身がちょっとアレだからプラマイゼロだけど。ともかく、美しいものが好きだ。だから自分も美しくありたい。身も心も。なのに、こいつは、このブサイクは、俺を性格ブスだと言う。ブサイクのくせに。 

「誰がブスだこのブス!!!お前自分の顔鏡で見たことあるか!?俺の中ではもはや同情に値するレベルだぞ!」
「っせ!!別にブサイクだろうと死にゃしねーだろうヨ!」
「いーや死ぬね!少なくとも俺がお前の顔をして生まれたら自殺するわ!」
「そんなんだからおめーは性格ブスなんだヨこのボケナスがァ!!」
「ボッ…見た目はともかく中身をブスだなんて言うのはお前くらいだぞ!人を見る目もないのかお前は!何が取り柄なんだお前は!」
「むしろ俺以外にお前の中身見て引かねー奴いるのが不思議だ」
「東堂はにこやかに受け入れてくれたぞ。ふん、やはりブサイクにはわからない世界らしいな」
「あいつはお前にべた褒めされて気分いいだけだろ」

呆れたようにため息をつく荒北。ため息つきたいのはこっちだ。つり上がったほっそい目、その中にポツンと浮かぶちっさい黒目、いつもむき出しの歯茎…何よりこいつだって性格ブスだ。口悪いし態度悪いしすぐ突っかかってくるし。まあ今日突っかかってしまったのは俺の方だが。

ブサイクを相手にしても時間の無駄だな、と舌打ちをひとつ。そうして踵を返そうとした。

「んだよ、言いくるめられて逃げんのかァ?みょうじちゃんヨォ」
「時間の無駄遣いはよそうと思っただけだ馬鹿め。わかったらその手を離せブサイクが移る」
「俺は病原菌か何かかコラ」

肩を掴まれてしまった。地味に痛い。くそっ、この元ヤンめ!元フランスパンめ!その頃からブサイクだなあとは思ってたんだよこのブサイクめ!

「その通りだお前なんか病原菌だだから離せブス北!」
「誰がブス北だ」
「いいから離せ気持ち悪い!」
「気持ち悪いは言い過…あっ、オイなまえ…っ!」

あまりにしつこいのでバシンと叩き落としてやると、荒北は叫んだ。それだけなら何も思わなかったが、今回は違った。なぜなら叫んだ本人が何故だか「しまった」という顔をしていたからだ。はて、なにかおかしなことでも叫んでいただろうか。その顔もブサイクなことに変わりはないが。

「……なんだよその顔」 
「っ…な、んでも、ねえヨ、バァカ」
「ああそうかよブス」
「てか、その、気にならねえのかよ」
「は?なにが」
「………ならいーヨ。俺も気にしねーからァ、なまえちゃん」
「ひっ」

叩き落とされた手をそのまま俺の頭の上に持っていった荒北。やばい鳥肌がやばい。禿げる。もちろんその手も瞬時に振り払った。

「ハッ、つれないじゃナァイ。まあいいや。部活あっからそろそろ行くわ」
「おう、二度とその面見せんなブス男」
「そいつァできねえな。じゃあなァなまえ」

なんだか出会い頭の時より上機嫌に見える荒北に首をかしげた。変な奴。やっぱりブサイクの考えていることはよくわからない。手をヒラヒラさせながら去っていた荒北を見送り、ようやく俺も帰れると安堵した。あれ、そういえばあいつ、俺のこと名前で呼んでたっけ。



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