短編 | ナノ
ただただ彼が羨ましかった。

「フッ、今日も相変わらず照れ屋だなカラ松ガール達は…」
「どういうこと?」
「俺の魅力にやられすぎて声をかけたくてもかけられないのさ」
「なるほど…」

そう言うとまたドヤ顔をしながらグラサンを外したカラ松。かっこいいなあ、と素直に思う。カラ松は自身が日頃から公言しているように本当に魅力的だし、かっこいいし、さらにこの自信に満ちた顔。おれには何一つとしてないすべてをカラ松は持っていた。そんな彼が羨ましくて、大好きで、目標だった。カラ松になるとまでは言わないけれど、少しでも彼に近付けるようになりたい。まあ、そんなことを願うことすらおこがましいのかもしれないけれど。

そういえばカラ松はさっき、近くの女の子達がカラ松に声をかけられないのは自分のせいだって言ってたけど、それは間違いだ。だっておれ、聞こえたもん。


『見て見てあの人!超かっこいいんだけど!』
『あたしも思ってた!』
『声かけたいんだけどさあ、隣の男ウザくない?』
『たしかに……早く一人にならないかな〜』


カラ松がかっこよくて魅力的なのはほぼ正解だ。真実だ。けれどおれがその邪魔をしていたんだ。今までただ目標に近付きたくてカラ松のそばにいただけだったのに、それがかえって彼の邪魔をしていたなんて。ずっとずっと気付かなかった。

そうだよな、おれみたいな暗くて地味なやつがカラ松のそばにいちゃダメなんだ。せっかくの輝きを台無しにしてしまっていた。カラ松は何も言わなかったら、別にいいんだと思ってたのに。とんだ間抜け話だ。

「……カラ松」
「ん?どうしたなまえ」
「おれ、もう帰るよ」
「えっ」
「しばらく会わないようにする。今まで気付けなくてごめんね」
「まっ、おい、なまえ、どういうことだ?話が見えない!」
「……女の子たちはおれのせいで声をかけてこなかったんだよ。本当はカラ松と話したいのに、おれがいるから…」

情けなくて恥ずかしくて、カラ松の顔を見れない。目線がズルズルと下へ向かっていく。

「…じゃあな、カラま」
「待ってくれなまえ!」
「っ!」

歩き出したつもりが、カラ松の手により呆気なく阻止されてしまった。驚いてカラ松の顔を見ると、今まで見たことないような悲痛な顔をした彼がそこにいた。

「嫌な思いをさせてしまって悪かった…場所を変えよう」
「え、でも、女の子は」
「もういい。お前がいればそれでいいんだ」

すがるような低い声に体が震えた。なんだ、これ。

「俺のためだって言うなら、会わないなんて言わないでくれ。そっちの方が辛い」

それは、じゃあつまり、これからもカラ松のそばにいてもいいってことなのだろうか。迷惑じゃないのだろうか。確認の意を込めて彼を見つめると、また自信満々の笑顔に戻って力強く頷いてくれた。

カラ松って、やっぱりかっこいいなあと思った。こんな男になろうだなんて思っていた自分が浅ましい。それでも今までよりは迷惑をかけないよう、会う頻度はこっそり減らしていこうと思う。カラ松に頼ってばかりじゃなくて、自分だけの力で頑張ることも必要だ。待っててくれカラ松。遅くなるだろうけど、必ずお前の隣に立っても恥ずかしくない男になってみせるから。

その時繋がれたカラ松の手の熱さの意味を知る頃には、もう何もかもがすっかり手遅れだった。










左手にある暖かい感触にだらしなく頬が緩む。お前に聞こえる声が俺に聞こえないはずがない。しかし言葉の意味をきちんと理解できていないのなら好都合。お前は何も知らない。本当は俺なんかよりもずっとずっと魅力的で、周りを強く魅了する。だから俺がいる。俺がいる限りお前が他所の泥棒猫にかっさらわれる心配はない。お前が離れたがろうと俺が離しやしないし、きっと出来やしないだろう。だってお前は俺に憧れてるから。その尊敬の念がいつか俺と同じ気持ちに変わるその時まで、いやその後も、ずっとそばにいてやるからな。




(今さら俺から離れようなんて不可能なんだから諦めろ)


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