短編 | ナノ
びゅうびゅうと冷たい風が吹く中、一人ぼっちでベンチに腰掛けている。もうすぐ日が暮れてしまいそうだ。最近本当に日が沈むのが早くなったなとぼんやり思った。

どうしてだろう。今日はとても素晴らしい一日になるはずだったのに、たった一言で最悪な一日になってしまった。もう絶望しかない。そこら辺に咲いている雑草にさえ笑顔を振り撒けていたのにもう今は引っこ抜いて投げ捨ててやりたいほどにダメージが大きい。大きいというかもう瀕死状態だ。息してるのさえ奇跡だと思う。ああもうここから歩き出すどころか立ち上がるのさえ困難だ。

ぐだぐだぐだぐだとそんなことばかり考えているうちにもうこんな時間になってしまっていた。一人ぼっちになった頃はまだ空は真っ青だったはずなのに。

「……なんだよ荒北くんかよ」
「誰だと思ったワケェ?」
「可愛い可愛いマイハニーが戻ってきてくれたと思った」
「ハッ、もうお前のじゃねえだろ」

不意に隣に誰かが座った。まさかと思いバッと隣を見たが、同じクラスの荒北くんだったのですぐに顔を戻した。期待してた分またダメージが。

荒北くんの言葉を聞く限り、もうすべて知っているんだろうな。

「なんで知ってんの」
「相談受けてたからァ、オメーと別れたいって」
「なん、だと…?」
「ってのは冗談で、見てりゃ分かるヨ」
「それこそなんでだよ!俺らあんなにラブラブだったじゃん!」
「盛り上がってたのお前だけだったぜ?」
「ひっ、嘘だそんなシンジラレナイ」
「なんつってフラれたのォ?」
「あたしたち、やっぱり友達の方がいいと思うんだよね…」
「ぶっは!!!」
「てめえこの野郎!」
「オメーが無駄な物真似入れるからだろ」

初めて出来た彼女だヒャッホーと浮かれていた一週間前の自分をぶん殴ってやりたい。マイハニー(故)は初デートにそんな台詞をさも残念そうに吐き捨て颯爽と帰っていってしまった。いくら友達の方がよかったからってその扱いはあんまりじゃね?俺が欲張りすぎなの?最近のカップルとか付き合い方ってこんなドライな感じなの?姉ちゃんからこっそり借りて読んでた少女漫画ではそんなことなかったのにあんまりだ。

「友達の方がいいとか言うんなら告ってくんなよなあ…はあ…俺もう誰も信じられない…」
「軽い人間不信じゃねーか」
「そう言ってんだよ…リア充爆発しろ」
「ちょっと前までリア充だったくせにヨ」
「るせー…」
「……おらよ」
「だあっつ!!」

グリッと優しさの欠片の一ミリも感じられない強さで頬に押し付けられたのはホットドリンクだった。気持ちは嬉しいんだけどその優しさをもう少し渡し方にも分けてほしかったぜ荒北くんよ。

「なに、くれんの」
「オメーがいらねーなら捨てるっきゃねえな」
「なんだよその言い方どこのツンデレだよ」
「いらねーんだなァ?」
「いるいるいりますありがとうございます」

押し付けられたそれを受け取り軽く握る。あったけええええ。生き返る。しかもココアと来たか。

「さっすが荒北くんわかってくれてるぅ」
「テキトーに選んだんだけど正解だったか」

ぶっきらぼうに言うけどそれは照れ隠しなんだって知ってるぜ荒北くん。いただきますと呟いて一口飲むと、甘くて暖かいそれがじんわり体内に広がっていった。うまい。今日は特に感じる。荒北くんの優しさのお陰か。

「…今日は一つ大人になった気分だ」
「そーかよ」
「この失恋が必ず俺を強くしてくれる。はず。たぶん」
「ずいぶんアバウトだなァ。ま、これに懲りたらもっと見る目養えヨ」
「なに言ってんだ、彼女いい子だったぜ。俺が悪いんだよきっと」
「……どーでもいいケドォ」

つれない奴だなあと目をつぶった。その時、ココアを持っていない方の、荒北くん側に投げ出していた手が突然暖かくなった。目をやるとそこにはもうひとつの手が。

「…冷てェ」
「寒かったからなあ。そう言う荒北くんはちょー暖かいね」
「手袋してたからだヨ」
「マジ?貸してよ」
「ヤダ」
「ケチ」
「っせ」

荒北くんとこうやって軽口を叩きあってる時間は結構好きだったりする。いつの間にかいつものテンションに戻ってきていたらしい。それもこれも、照れ屋なこいつのお陰だな。

「…なんかありがとねー荒北くん」
「なんのことだヨ」
「気にすんな、独り言だよ」
「でっけえ独り言だなァ」
「…あーあ、なんか楽になったわ」
「切り替えはえーのはいいことなんじゃナァイ?」
「ははっ…もし荒北くんと付き合ったら毎日こんな感じで楽しいのかもなぁ」
「………」
「…冗談だから睨み付けるのやめてもらっていいスか」
「……気持ちわりーんだよボケナスが」

口悪いなマジで。今に始まったことじゃないんだけど。気持ち悪いって言うわりにはまだ側にいてくれてるのは優しさだってわかってるからさ。ほんといい友達持ったよ俺。そしてやっぱりココアはうまい。

この調子なら明日もいつも通り学校へ行けそうだ。荒北くんどうせ明日の昼飯またパンだろうし何か奢ってやるか。とりあえず、次はもっとちゃんと考えて付き合おう。目指せ最低1ヶ月!




(ったく…この鈍感チャンが)


151221