07


「大丈夫ゥ?」

そう言ってわざわざ家にまでやって来てくれた荒北くん。彼だって授業があったのに、申し訳ないことをした。本当に。聞けば先生からここの住所を聞き出したらしく、探してきてくれたらしい。休むことは朝一番に連絡していたはずなのに、彼の面倒見のよさには頭が上がらないな。

「だいたい、あのみょうじクンが自分から、しかも朝っぱらから連絡してくること自体オカシイからネェ?そりゃ飛んでくるヨ」
「はは…なんか、逆に心配かけちゃったかな」
「心配かけてんのはいつものことじゃナァイ。つかさァ、」
「っ、」

す、と顔に触れた手に肩が跳ねた。

「……寝てない、よネ?」

よく見てるなあと思う。どんなに隠そうとしたって、荒北くんは何もかも見つけてしまうんだ。まいったな。

「……ああ、眠れてない」

降参とばかりに、昨夜の出来事をすべて白状した。またあの声がしたこと。またキスマークをつけられていたこと。明らかに誰かが部屋に入っていたこと。それから怖くて眠れなくなったこと。怖くて部屋から出られなくなったこと。荒北くんが来た時も怖くてドアを開けるのを躊躇してしまったこと。今だって、怖くて体が少し震えてしまうことも、なにもかも。

一言一句しっかり聞き取るように、荒北くんの鋭い目はじいっと俺を見つめていた。真剣な顔をしたまま、ただ静かに、俺の話に耳を傾けていた。やがて一息ついた頃、そっかァと小さな声が返ってきて、

「ぅえっ、」
「怖かったネ」
「あ、荒北くん」
「ナァニ?」
「なあに、って…」

急に腕を引かれて、そのまま彼の腕の中に閉じ込められてしまった。真っ暗で何も見えない。でも、暖かくて、ひどく安心した。変なの。軽く触れられただけで、あんなにビクビクしていたくせに。きっと体が理解したんだろう。荒北くんは大丈夫だって。そう思った途端、緊張や不安から力んでいた体がフッと軽くなっていくのがわかった。

「…気になることはたくさんあっけどさァ、とりあえず今は寝なヨ、みょうじクン」
「……でも…」
「大丈夫だってば。オレがついてんだヨォ?お化けでもなんでもぶっ飛ばしてやるって」
「…それは、頼りになるなあ…」

自信満々な荒北くんに笑みがこぼれる。精神的によっぽど疲れてたんだろう、勝手に瞼が下がってきた。

「……ごめんな、荒北くん。ありがと…ぅ…」

背中に回された腕だけじゃ不安だからと、すぐそこにある服にしがみつくようにして、呆気なく意識を手放した。














「……もうすぐ終わるからネ。安心して、かわいいかわいい、オレのなまえチャン」








161013