05


「俺日替わりランチで」
「じゃあオレもそれー」

食堂のおばさんに食券を渡し、トレイを手に数分待っていると、出てきたのは出来立てほやほやの日替わりランチ。今日はカツ丼だったらしい。美味しそうだ。

坂本先生から謎の忠告を受けてからもう一週間経つけれど、その後もこうして荒北くんとの交流は続いている。だからといって坂本先生が何かを言いに来るわけでもないし、もちろん荒北くんと一緒に過ごすことによりなにか異変が起きたなんてことも皆無だ。結局あの言葉はなんだったんだろう。考えてもわからないしわざわざ聞きに行くのも面倒なので、深く考えずもうそのままにしている。なにより坂本先生の噂も噂だし、それが真実だというしっかりとした信憑性があるわけではないが、基本的にこちらから近付くほどよく会う先生でもないし、まあ、ぶっちゃけてしまうと面倒なのだ。面倒事には首を突っ込まないのが正解だろう。




「今日カツ丼だって知ってたのか?」
「いーや?別に」
「ふーん」
「どうしてェ?」
「荒北くんお肉好きだろ?だから一緒にしたのかなーって」
「そんな単純な理由で決めてないヨ」

拗ねたように頬を膨らませるのがおかしくて笑ってしまうと、また怒ったように軽く俺を睨んできた荒北くん。悪い悪いと謝ると、もう、と呟いてご飯を口に運んでいた。その様子をなにも考えずボーッと眺めていたら、そのまま視線は荒北くんの口元にたどり着く。

「……あ」
「ナァニ?」
「ちょっと動くなよー…」
「えっ、や、な、に」
「……ははっ、ご飯粒」

ほら、と見せた俺の指先にはご飯粒が付いていた。子どもっぽいとこあるんだなあとまた笑ってしまった。そしてすぐに、あ、また怒られるかも、なんて思ったけれど。

「…………」
「…え…あー…ごめん。気付かないことくらい誰だってあるよな。でも別に馬鹿にしたわけじゃ」
「ご、めん」
「え」
「トイレ」

バン!と大きな音を立てて立ち上がったかと思えば、そのまま走り去ってしまった荒北くん。行き先は本人も言っていた通りトイレだろうけど、今のこのタイミングで?あんな張り切って?少し困惑というか驚愕というか。

「……大丈夫かあ…?」

のんびりそう呟いてから数分後、ちゃんと戻ってきてくれた荒北くんにもう一度謝罪をしておいた。







160922