03


ーダァイスキー




「……ちょっとしつこいぞー…」

最近では寝起きについ文句を言ってしまうほど慣れてきた。多分慣れちゃダメなんだろうけど。それにしてもしつこいな。そんなに大好き大好き言うなら、起きてる時に言ってくれればいいのに。照れ屋さんなのか?













「ハア?なにそれ」
「や、だから」
「なんでもっと早くに言わなかったワケ」
「あー、うん、それはなんかごめん」
「…………はあ……」

昼食時。さすがに少し気になりだしたということでまずは大学に入ってから一番親しくしている荒北くんに相談してみた。それまではいつものようにニコニコしながらハンバーグを食べていたのに、話した途端急に顔から一切の表情がなくなってしまったので焦った。やっぱりなかなか大事らしいなこれ。そりゃそうか。毎晩誰かも分からない人間から大好きだなんて。俺が楽観視しすぎてたのか。

「……ま、みょうじクンのことだからァ、大方寝惚けてるだけだろってそれ以上深く考えてなかったってことでしょォ?」
「正しくそんな感じ」
「ったく……いーい?今後また少しでも変だって感じることがあったらすぐオレに報告すること。わかったァ?」
「了解了解。それで、なんだと思う?やっぱり幽霊か何かかな」
「なァんでそんな楽しそうなワケ…まあ、可能性があるとしたら幽霊チャンなんじゃナァイ?」
「ふーん」
「だァってみょうじクンってそんなにモテるタイプには見えないしィ?」
「…………え、今もしかして俺バカにされてる?」
「ソンナコトナイヨー」
「そんなことあるだろ荒北くん肩震えてるじゃん!失礼!」

やがて耐えきれなくなったようにぶはっと笑いだした荒北くん。なんだろう、昨日の授業中もそうだったがよくバカにされるというかおちょくられるというか。ひどいな。

「そういう荒北くんはどうなの」
「ふっ、ふふ、何がァ?」
「いつまで笑ってんだよ……モテるタイプ?モテないタイプ?」
「んー……みょうじクンはどっちに見える?」
「おお、そう来る?うーん……」

じー、っと荒北くんの顔を見つめる。ビジュアル的には俺よりかっこいい方だと思うけどな。まつげ長いし。黒目小さいけど。どっちなんだろう、見た目でモテるのか中身でモテるのか。中身は今みたいによく意地悪なところもあるけど、なんだかんだで優しいし面倒見いいところもあるし……あれかな、最近はやりのギャップってやつでモテそう。

いろいろ考えながら見つめていた荒北くんの顔が、不意に俯いた。ちょっとジロジロ見すぎたかな。悪いことをしてしまった。

「……モテるタイプ」
「へー……どうしてそう思ったのォ?」
「顔は俺よりかっこいいし、長身でスタイルも良いから見た目は申し分ないだろ。性格だってたまに意地悪だけど本当はすごく優しいから、荒北くん」
「…………」
「まあ中身に関しては俺が感じてるだけのことだから本当はどういうキャラなのか完璧に把握してるわけじゃないけど……荒北くん?」

俯いたままの荒北くんの様子が気になり、言葉が途切れた。名前を呼ぶとやっと上げられた顔は、すごく真っ赤に染まっていた。

「……え、」
「そ、そんな風に、言われたことないから、さァ…かっこいいとか、優しいとか…」
「…え、なに、照れてるのか?」
「っ、だ、だからァ、」
「なんだ、意外と可愛いとこあるんだな荒北くん」
「も、みょうじクンうっさい!」
「いって」

バシンと肩を叩かれたが、さっきの荒北くんみたいに笑いが止まらなかった。なるほどこれもギャップってやつなんだろうな。女の子相手ならウケがよさそうだ。

気分を悪くしたか怒ったから俯いたのかと思えば照れていただけだったらしい。よかった。やがてため息をついた荒北くんも、同じように笑っていた。








160813