02


遠くで先生の低い声が聞こえる。杉山先生は渋くてイケメンボイスで有名だ。まあ顔は置いといて、というのは女子たちの言葉だ。そんな杉山先生の授業、実は苦手だったりする。理由は単純に眠たくて眠たくて敵わないから。俺だけじゃなくて他にもそういう理由から苦手だって言ってる同期も少なくない。冗談とかじゃなくてほんとにすごいんだって杉山先生。俺なんか普段から寝不足だから余計辛い。効果は抜群だ。

「……つまりこの式には……」

眠いなあ。ああ、本当に眠い。みんなよく真面目に受けてられるなと何度目かもわからない欠伸を押し殺した。荒北くんから再三言われてたし、昨日はいつもり早くに眠ったつもりなんだけどなあ。もはや病気なんじゃないかってくらいに眠い。そういや前に親父言ってたなあ。たしか究極に眠たいと目を開けたまま寝れるとかなんとか。いやいやそれはさすがにないだろってつっこんだけど今なら出来そうだな俺。あー眠い。やばい。眠い。でも寝たら怒られるしレポート書かされる。でも眠い。でも怒られる。でも眠い。ううう。

「よって答えはこうとなるので……」

まあ、でも、一瞬だけならバレないか。一瞬寝るってちょっと意味わかんないけど。一瞬意識飛ばす的な。親父みたいに目を開けたまま寝るってのは俺にはまだレベルが高そうだし、ほんとに一瞬だけでいい。数分、いや一分でもいい。ちょっとだけ瞼を

「っ、」

閉じようとした、その時、なんだか嫌な感じがした。背筋がぞわりとするような感覚。直接なにかが当たったとか触られたとかそんなんじゃない。なんだこれ。すっかり眠気が覚めてしまった。

(視線、か?)

感じたままに後ろを見ると

(あ、)

一番後ろの席にいた荒北くんと目が合った。途端に変な感覚に襲われる。さっきの視線は荒北くんのものだろうか。笑っているということは、

「…ではこの問を、余所見をしているみょうじに答えてもらおうか」
「えっ!あ、は、はい」

今度は心臓が大きく跳ねた。最悪だバレたし。しかしまだ簡単な問だったので教科書を見返しつつなんとか答える。危ない危ない。

(くっそー…)

そうして再び、今度はこっそり後ろを見たら、またおかしそうに笑ってる荒北くんと目が合う。くそ、やられた。授業が終わったら文句を言ってやろう。






160813