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ーダァイスキー





それがどんな声なのかはわからない。ほとんど吐息に近い音で囁かれているから。それでも毎日毎日毎日毎日、眠っていると、聞こえてくるんだ。

「……また、かあ」

そのくせこんなに楽観的に構えていられるのは、疲れてるんだろうなと自己解決してるからだろう。最近課題やら実習やらに追われてろくに睡眠もとれていない気がする。ついこの間黒々とした隈を指摘されたところなのにいっこうに改善の兆しが見られない。寝なきゃいけないのはわかってるんだけど寝る前にあれだけは終わらせて…みたいな感じでどんどんどんどん布団が遠くなってしまうんだ。ダメだなあほんと。

ボサボサになっている髪を軽くといて、のそりとベッドから降りた。今日は三時間目からだからもう少しゆっくりしてから行こうかな。ああでもたしか彼と一緒にレポートをしようって約束をしてた気がする。近くにあったスマホを確認すると、やはり連絡が来ていた。急がないと。












「おはよう、荒北くん」
「ハヨォ、みょうじクン」

連絡をくれていた彼とはまだ人の少ない食堂で待ち合わせをしていた。緩く手をふると笑顔が返ってくる。それにつられて俺も笑った。荒北くんとは学科が同じで知り合った同期の友達。一見俺よりも細くてか弱そうに見える彼だけど、高校から続けているという自転車(競輪とは違うらしい)を今でも続けている立派なスポーツマンだ。

「レポートどこまで進んだ?追い付けるといいんだけど」
「そんなに進んでないヨ。てゆーかァ、」
「うん?」
「隈、なーんか、濃くなってナァイ?」

オレの気のせい?と荒北くんの指が俺の目元に触れた。

「あれ、そうかな。前よりはマシになってると思ったんだけど」
「なってないし。ちゃんと寝ろっつってるでしょォ?」
「んー、でも、」
「課題だなんだっつーんなら徹夜じゃなくて早起きすればァ?オレがモーニングコールしたげよっか?」
「うげ、それは無理。俺朝苦手だもん」
「ハッ、そういやそんなこと言ってたネェ」

くすくす笑う荒北くんは優しい男だ。声色や口調からはそう見えないけど、よく俺の心配をしてくれている。嬉しいけれど、あまり心配させないようにしなきゃなあ。そのうち愛想つかされそうだし。

「みょうじクン」
「ん?」
「眠れない理由って、やることが終わらないってことだけ?」
「…………?」

暫しの沈黙のあと、首をかしげた。どういう意味だろうか。

「……気のせいならいーや」
「えっ、なにそれ、気になる」
「ヒーミーツ。それよりほらァ、さっさと終わらせないとまた眠れなくなっちゃうヨ?」

笑ってはぐらかされてしまった。でも本当に分からないしなあ。けど、どうやら荒北くん曰く「ヒミツ」だそうなので教えてはくれないんだろう。とりあえず授業が始まるまでに目の前にある忌々しいレポートを排除しなければ。





160810