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(あ、また電気付けっぱだ)

最近多いなァ。気を付けなきゃ電気代ヤバイことになるヨみょうじクン。そう思いながらベッドの端に投げ出されていたリモコンを使って電気を消してあげた。今日もすやすや寝てるなァ。可愛いなァ。

みょうじクンの家を見つけてからもう数週間は経ってる。こうして毎夜毎夜忍び込むようになったのは先週辺りから。最初はみょうじクンがいない日や時間帯を見計らって侵入してた。どんな部屋なのかなァとかどんなもの食べてんのかなァとか使ってるシャンプーとか芳香剤とか歯ブラシの色とかベッドの位置とか、とにかく小さなことから大きなことまで全部全部把握するようにした。風呂場に入った時は全裸のみょうじクンを想像しちゃって2、3発抜いちゃったけど後処理は完璧にしたからバレてないしまさか自分の部屋に不法侵入されてるだなんて夢にも思わないだろう。ベッドに入った時はほんとにヤバかったけどネ。あのセンセーの言ってる意味がやっとわかった感じ。ありゃたまんねーやと思ったけどさすがにあそこでオナニーなんかしちゃったらバレるからなんとか必死で堪えた。そうして部屋の中全部知り尽くしたから、今度はこうして、みょうじクンがいる時に忍び込むようになった。毎日毎日、今までよりもほんの少しだけ早起きして、みょうじクンの部屋に寄って、そんで一旦帰ってそのまま学校。早寝早起きのサイクルが出来て健康的だしみょうじクンの寝顔が拝めるし一石二鳥だ。しあわせ。

だけど、それにも慣れてくると物足りなさを感じてくる。次から次へとさらに強い欲求が生まれてくる。どんどんハマってってるなァなんて他人事のように笑って、穏やかな顔をして寝息を立てるみょうじクンの頬に触れた。

(はっ、やわら、かぁい…おいしそォ…)

でも、ダメだ、あんまり触ったら、起きちゃうかも、ああでも、離れない、きもちいい、むにむに、して、はあ、爪、立てちゃいそォ、いや、だから、ダメだってば…

ううんと頭を振ってなんとか手を離す。我慢我慢。まだ我慢しなきゃ。本来の目的忘れて暴走しちゃったら元も子もないからネェ。

(けどまあ、どのみちそろそろ何かしらアクション起こさなきゃダメかァ)

オトモダチ以上のポジションを確実なものにするためには、ただただ知り尽くすだけじゃダメだ。オレがこうしてみょうじクンのことをたくさんたくさん求めてるみたいに、みょうじクンからもオレのことをたくさんたくさん求めてもらわないと。だから、すこーしずつ、すこーしずつ、恐怖を植え付ける。

「ダァイスキ」

声は出さずに、まるで内緒話をするように、それでもよく聞こえるように耳に唇が触れるくらいの距離で囁いた。少しずつ。少しずつでいい。ちょっとした違和感がやがて徐々に大きな不安になって襲いかかってくる。その時が来たらオレの勝ち。焦ってヘマしたらオレの負け。だから慎重にゆっくりと時間をかけて、みょうじクンに気付かれないようにじわりじわりと毒を仕込んでいく。でも安心してネ、それが致死量にまで達する前に、ちゃあんとオレが助けてあげるから。だからそれまでは我慢してネ。オレも頑張って我慢するからさァ。








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