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じゃあ練習行くから、と別れた直後。そろりと振り返ると、みょうじクンはオレの視線になんて気付かないままテクテクと歩いていく。その数メートル後ろから静かに静かについていく。慎重に、バレないように、みょうじクンの少し後ろを歩く。大学から出れば人もまばらになってきて、さらに緊張が走る。



『家がわかったら周辺も調べておくの』


あの気持ち悪い変な女はどうやら大学の教師だったらしい。また遊びに来てもイイヨっつったら簡単にペラペラいろんなこと教えてくれた。ブスだし気持ち悪いし通報してやろうかと思ったけど、利用できそうだから保留。

しばらく歩いていると、青い屋根が目立つアパートが見えてきて、みょうじクンはそこに入っていった。電柱の影に息を潜めて待つ。一軒家がいくつか立ち並んでいるそこはあまり賑やかとは言えなかったけど、穏やかで落ち着いている印象があった。あとは…外灯が少ない気がする。夜道とか大丈夫かなァ。最近物騒だから一人で出歩かせんの心配なんだけど。

周囲を見渡したあと、そっとアパートの玄関まで向かった。ポストで部屋の確認をする。指を滑らせながらダイスキなみょうじクンの名前を探して、見つけた。

「みょうじ……303号室…」

小さく声に出してみた。瞬間口角がつり上がっていくのが分かって、それでもそれを隠さずにみょうじクンの名前を何度も何度もなぞった。

どこに住んでいるのか知ることができた。嬉しい。これでいつでも遊びにいけるネ、みょうじクン。

「ケドォ…まだダメだネェ…」

家知ってるだけじゃまだオトモダチ以上だなんて言えない。まだまだ序の口。もっとだ。もっともっともっともっともっと、みょうじクンのこと、知らなきゃ、家知ってるなんざ普通だ、これだけじゃオトモダチとも言えないかもしれない、だから、

「次はちゃぁんと遊びに行くネ、みょうじクン」

べろり。みょうじクンの名前、舐めちゃったァ。オレの唾液でてらてらしてるネェ、やらしいネェ。

クスクス勝手に溢れて止まらない笑みもそのまま、ふらりとその場をあとにした。









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