09
「ペアまだ決まってないなら、俺と組まないか?」
二人一組になって課題を解けだなんてぬかしたセンコーに対し、入学早々面倒な授業しやがってと舌打ちしそうになった。洋南に進学してる知り合いなんざ数人しかいねえしそもそも学科が違う。ああめんどくせえどうしたもんかと頭を掻いてたら、さっきの言葉が飛んできた。
「………は?」
ヘラヘラ顔を見る。知らねえ顔だ。誰だコイツ。
「俺、まだ誰とも組めてなくてさ。隣同士だし、どうかな」
隣に座ってた奴か。そんなことにも気付かなかった。
「…ん、イイネ。オレでよかったら組んでヨ」
まあどうせ課題クリアまでの辛抱だ。めんどくせえけどわざわざ自分から声かけに行く手間も省けたし、とりあえずこの人の良さそうな変な奴と
「俺、みょうじなまえ。荒北くんだよな?」
は?名前…ああ、出席とる時か。
「そうだヨ、よろしくネェみょうじクン」
「よろしくな。じゃあさっそくなんだけど…」
テキパキと今後の話を進めていくみょうじくんは、やっぱり笑顔だった。ほんと変な奴。
まあそんなコイツと関わるのも課題が終わるまで。終わってしまえばまた赤の他人に元通り。そう思っていたのに。
その日から、よく声をかけられるようになった。
廊下で。教室で。食堂で。屋外でも、練習中も、下校中も、オレを見ると声をかけてくるみょうじクン。なんだコイツ。やっぱり変な奴だ。どうしてオレなんかを構いたがるんだろう。意味がわからない。そう思ったのに、いつものように軽くあしらうことも、遠回しに拒絶の言葉を投げることもできなかった。
「みょうじクン」
「うん?」
「もう課題終わったヨ?」
ある日のこと。自分でも何言ってんだと思った。みょうじクンもきょとんとしてやがる。
そうだよ、課題はもうとっくに終わってんだ。だからもうオレなんかに構う理由はねえだろ。
「課題?」
「ペアのやつだヨ」
「………ああ、あの時のか!懐かしいなあ」
そう言ってヘラヘラ笑うみょうじクン。
「それが、どうかしたのか?」
「……終わったんだから、そんな律儀に、さァ…オレに、声かけにこなくて、いいんだヨ?」
めんどうだろ?いちいちさァ、そうやってさァ、おはようとか元気かとか隣いいかなとか練習頑張ってねとかまた明日なとか、そんなの、いらねーからさァ、やめろヨ。
「へ、なんで?」
なんでって、なんでだろ。ウザいから?気持ち悪いから?イライラするから?ムカムカするから?
「俺らもう友達だろ?」
ああ、そうだ、わかった。
「……なーんだ、そっかァ、友達かァ」
「そうだよ。変なの」
そう呼ばれるのが嫌だったんだ、オレ。
(いつからこんなに惹かれてた?)
161014