『鹿児島なーう』
「なーうじゃねーヨぶっ飛ばすぞ」
『そうカッカすんなよ、ちゃんとお土産買っとくからさあ』
「そういう問題じゃねーんだよボケナス」

電話の向こうで無駄に陽気な声で話すみょうじに思いっきり舌打ちしてやった。急に着信が入って何事かと思えば。せっかく無口と昼飯食ってたのにぶち壊しだぜ。

「つーか行くなら行くでもっと事前に教えとけよビビんだろうが」
『俺だってビビったよ、緊急だったから』
「ったく………親父さん、大丈夫だったか」
『ああ。ちょっと倒れただけだってさ。元々体調崩してたくせに無茶するからこうなるんだよな〜マジ自業自得』

あくまで茶化しながら話してはいるが、内心気が気じゃなかったんだろう。そうでもないと何も告げずに学校休んでまで会いに行くとは思えない。

こいつの家庭事情を知らされたのはつい最近のことだった。もしものために、とかなんとか言って俺には教えてくれたらしい。信頼されてると思えばいいのか厄介事を押し付けられたと思えばいいのか。それでも結局最後まで話を聞いちまった辺り、俺もすっかり甘チャンになっちまったんだなあと思った。

「でェ?いつ帰んだヨ。まさかもうそのままずっとそっちってわけじゃねえんだろ」
『それはさすがにな。卒業はちゃんとしねえとうるせえし。まあ多分今週中には戻る』
「黒田にはちゃんと話してんのか」
『あー……』
「…ナァニ、その間」
『実は昨日勢いでフッた』
「はあ!?」
『多分お前んとこに行くかもしれねえけど、俺が戻るまで適当に相手してもらってていい?頼んだ』
「ちょっと待てふざけんな急展開過ぎて頭追いつかねえよどういうことォ!?フッたってなんだヨ!もちろんちゃんと話した上でそういう流れになったんだよなァ!?」
『それがさあなんにも話せてなくてさあははは』
「はははじゃねえよオメーマジでふざけんなよ!!」
『まあ戻ったらちゃんと話すって。多分。だからそれまで頼むぜ相棒』
「誰が相ぼ…おいコラァ!!切ってんじゃねえぞボケがァ!!」

中途半端なところでブチられた電話。思わずケータイをコンクリートに叩きつけそうになったがすんでのところで耐えて頭を抱えた。もう、マジで、あいつら、めんどくせえ。

「…みょうじくん、大丈夫?」
「そこは俺の心配してほしかったぜ無口チャンヨォ」
「えっ、」

意地悪くそう言うとあたふたしだした無口を見て、少しだけイライラがおさまった。しかし現状は変わらねえ。ちゃんと自分で話すっつってたから黙って見てたのになんでそれすっ飛ばして別れ話に発展してんだよ。そこはさすがに黒田に同情するぜ。まあなにかしら理由があってのことだろうけど、あのバカがそんなんで納得できるかっつー話だろ。しかもその翌日に黙って鹿児島とかケンカ売ってるとしか思えねえ。そんなに煽るのが楽しいなら俺のいねえところでやれってんだ。毎回付き合わされる俺の身にもなれよなクソが。

はあ、と大きくため息を吐いた。同時に壊れんじゃねえのってくらい激しく開かれた屋上のドア。そこにいるのが誰なのか。見なくてもわかる。そろそろ胃に穴が開きそうだと他人事のように思った。

「あ、あれって…」
「…悪い無口」
「!」
「先に教室戻ってろ」
「……わかった」

静かに伝えると、パタパタと屋上から出ていった無口。入れ違いで俺の方へ歩いてくる黒田は、明らかに焦っていた。

「…俺が聞きたいこと、分かりますよね?」

分かってるよ。分かってるからこんなにイラついてんだよ俺は。ほんっとめんどくせえな、お前ら。




160702