まるで天国のように感じた冬休みはあっという間に終わってしまって、気付けば三学期が始まっていた。こんなにも時間が過ぎるのを早く感じてしまうのは、ただ学校がダルいからっていう理由だけじゃないことはとっくに分かってる。それでも目をそらし続けていないと、どうにかなりそうだった。






(……あ、)

一分一秒でも離れてるのが惜しくて、可能な限りあの人のそばにいるようにしていた。そんなある日の休み時間。廊下の窓に凭れて荒北さんと話をしているみょうじさんを見つけた。いつもなら姿を見つけただけで頬が緩むのに、今は真逆で顔が強ばっているのがわかった。荒北さんと話すあの人の顔も、荒北さんの顔も、ひどく真剣そうだったから。

なんだ。二人とも、そんな顔して。いったいなんの話をしているんだ。


「っ……みょうじさん!」
「!」

何故だかいやに騒がしくなる心臓に気付かないフリをして、わざと大きな声で名前を呼んだ。驚いてこちらを見た二人。荒北さんはみょうじさんに何か呟いたあと、教室の方へ入っていった。それを良いことにズンズン近付いていくと、さっきの真剣な顔をサッと潜めていつもの不機嫌そうな顔になったみょうじさん。その態度にまた嫌な感じがした。

「…声でけーよバカ」
「なんの話してたんですか」
「!」
「荒北さんと、なんの話してたんですか」

単刀直入にそう尋ねたけど、一瞬目を見開いただけで、またいつもの表情を浮かべた。だけど視線をそらしたってことは、俺には言えないことってことだ。どうでもいい話なら正直に教えてくれるか、もしくは適当に答えるし、どちらにせよ疚しいことがない限り視線をそらそうだなんてしないはず。

「…俺には言えないんですか」
「……お前には一切関係ねえことだからな」
「ならいいじゃないですか。大まかにでいいから教えてください」
「めんどくせえ」
「みょうじさん」
「……授業ダルいなって話してただけだよ」
「嘘だ!ならなんであんな真剣な顔してたんスか!!」
「してねえよ。お前の見間違いだろ」
「そんなわけない!ちゃんと教えてください!」
「チッ…だから、お前には関係ねえことだって」
「関係ないって言うな!!」
「いっ、」

肩を強くつかんで窓に体を押さえつけた。関係ないって、そうやって突き放そうとしないで。関係ないかどうかなんて知らない。みょうじさんのことならなんだって知っていたいのに、関係ないの一点張りで教えないなんてやめてほしい。ああ、もう、どうしてこんなに胸騒ぎがするんだろう。

「荒北さんには言えるのに俺には言えねえのかよ!!」

バカみたいな嫉妬だけならどれだけよかっただろう。自分でわかる。俺、今すげえ焦ってる。

誰かに言われたわけでもないのに、なぜだかこの人が俺から離れていきそうで怖い。最近そんなことばっかり考えてて、ちょっとでもみょうじさんから異変を感じると不安になる。敏感になりすぎてる自分がおかしいのか。

「……黒田、痛い」
「!」

小さく聞こえた声にハッとして、すみません、と肩から手を離した。少しだけ冷静になるけど、でも、ダメだ、まだざわざわする。どう形容すればいいのかもわからない。ただただ漠然と不安が募る。

「…何でもないから、マジで。気にしすぎなんだよお前」
「……みょうじ、さん…」
「なんだか知らねえけど、そんないろいろ気にしすぎてたらはげますよー黒田くーん」

茶化すようにそう言うと俺の頭をわしゃわしゃと撫でてそのまま行ってしまったみょうじさん。誤魔化されたってすぐに気付いた。なのに簡単に折れてしまった俺は、やっぱりどうしようもなくバカなんだろう。そしてどうすれば俺を簡単に黙らせられるかをよく知っていて、それをなんの躊躇いもなく行ってみせるみょうじさんは、どうしようもなくズルい人。

バカのままでいい。それであんたがちゃんと俺のそばにいてくれるなら、いくらでもバカでいるから、だから、ちゃんとあんたの口から聞かせてくれよ。ずっとそばにいるって。







160619