「明けましておめでとうございます」
「あけおめー」

新年早々みょうじさんに会えるなんて夢みたいだ。去年じゃ考えられない。でも、現実だ。目の前でダルそうに片手を挙げて俺を見るこの人は、紛れもなくみょうじさん。俺の恋人。ずっと手が届かなくて、でも必ず手に入れると決めていた人。世界で一番大切な人。

年末に一緒に帰省して、今日もこうして二人で初詣。本当に、夢みたいだ。

「人、まだ多いですかね」
「多いに決まってんだろ、まだ昼過ぎだぞ」
「じゃあはぐれないように繋いどかなきゃですね」

してやったり、と笑いながら手を差し出したら舌打ちされた。それでもちゃんと握ってくれるんだからほんとズルい。そういうとこ。とてつもなく分かりづらいけど、この人はちゃんと俺のことを愛してくれてる。今なら胸を張ってそう言える。もう体も心もなにもかもが、俺のものだって。

「あとはもう少し素直になってくれれば完璧なんですけどねえ」
「素直になってほしかったらお年玉よこしやがれ」
「普通逆でしょ、みょうじさんがお年玉あげる側でしょ」
「お前にやるくらいならドブに捨てるわ」
「甘いですねドブまみれになってでも全部回収しますよ」
「普通に引く」

いつものようにとてもカップルらしくない会話を交わしながら歩道を歩く。神社が近くなるにつれて人も増えてきた。中はきっともっとたくさんいるだろう。離されないようにしないと、とさらに強く手を握る。あったかい。みょうじさんも同じようにあったまってるといいんだけど。










参拝して、おみくじを引いて、屋台を軽く見て回って、神社から少し歩いて、人気の少ない公園のベンチに腰かけて、焼きとうもろこしを頬張った。みょうじさんはベビーカステラだ。

「よく食えんなとうもろこし」
「美味しいですよ?」
「歯に挟まるからいやだ」
「なるほど…そういえば、みょうじさん神社で何お願いしたんですか?」
「何って…え、これ人に言っていいんだっけ。ダメじゃなかったっけ」
「覚えてねえけど大丈夫なんじゃないスか?」
「適当なやつには教えねえ」
「ケチ」

まあ恐らく健康祈願とか幸福祈願とか、普通のことなんだろうな、俺と違って。

「そういうお前はどうせあれだろ、ずっとみょうじさんと一緒にいられますように〜とかそんなやつだろ」
「え、すごい!エスパーですか!?愛ですか!?」
「図星かよ単純かよお前」

目を輝かせて驚いたフリをする。似てるし惜しいけど、そうじゃない。それだけじゃない。

この人がどこにも行きませんように。ずっと俺のそばにいてくれますように。これからも、ずっとずっと、死ぬまで、一緒にいられますように。

今日だけじゃない。常日頃からそう願ってる。今この人と付き合ってるのは俺なのに、浮気なんかされてないのに、そういう空気になったことなんかないはずなのに、それでも、不安で仕方ない。冬休みに入ってからはより強くそう感じるようになった。触れないように触れないようにってしてるけど、頭のどこかにいつだって過る“卒業”の二文字。当然みょうじさんと同じ大学に進学するつもりだし、卒業以降二度と会えなくなるわけじゃない。そりゃあ今みたいに毎日簡単に会えるなんてのは無理になるかもしれないけど、たった一年だ。たった一年我慢すれば、また今みたいにずっと一緒にいられる。だから、大丈夫だ。大丈夫。

「……なんつー顔してんのお前」
「え?」
「こわーい顔してましたよ黒田くん」
「…ちょっと、考え事してました」
「ふーん。考え事ね。俺といるのに」
「えっ、あ、いや、でも考えてたのは」

みょうじさんのことだけだ、と言おうとしたら、細長い指が口元に触れた。どきりとして言葉がつまる。少しして離れた指には、とうもろこしが。

「ったく、子どもかよ」
「あ、」

そのままとうもろこしを自分の口へ持っていって食べてしまったみょうじさん。なんでそういうことを軽くやっちゃうかな、この人。普段は照れ隠しでツンツンしまくりなくせに。

そうやってまた俺を虜にして、同時に不安にさせるんだ。






160618