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「荒北くん」
「…………」
「君はアホですか」
真顔でそう言った俺に対して荒北はというと、それはそれはもうすっごく怖い顔をしていたのだが、反論できずに俺を睨み付けてくるだけだった。そりゃそうだ、俺なんにも間違ったこと言ってないもん。こいつが文字通りアホなことしちまったのがすべてだ。100人に同じ話をしたら100人全員がアホですかって言うぞ多分。男の嫉妬ってのは醜いねえマジで。某黒田くんも同類なのではやくその嫉妬深い性格を直すように。
しかも、まだ断定してないのにだ。勝手に決めつけて勝手に嫉妬して勝手に八つ当たりして勝手に気まずい空気になってるだけだろ。ほんとにもう…
「アホですね」
「っせーなそんな何回も言わなくても俺が一番わかってるっつーのォ!」
「はあ?わかってねえからこんなことになったんだろうがアホ北」
「てめっ…!!」
「それで?そんなアホ北くんはこの俺にどういったアドバイスをご所望で?」
つってもこの状態で俺が助言できることなんてたかが知れてるぞ。ほとんど自爆だし。せっかく去年までの元ヤン(笑)キャラを頑張って崩してまで仲良くなったって聞いてたのに結局自分でぶち壊してんじゃねえか。ここまで自業自得って言葉が似合う状況もそうそうないぞ。
「ぶっちゃけお前は今後どうしたいんだよ。仲直りして二人のこと見守ってくのか?それとも諦めずに食らいついてくのか?選択肢によっちゃだいぶ変わってくるぞ」
「俺は…」
「…先に言っとくわ。あいつのことを思って〜とかいう綺麗事だけで行動しようとしても無理だと思うぞ。お前俺と違ってそんな器用なやつじゃねえだろ」
「………っせ」
乱暴に頭を掻きながら席を立った荒北。おいおいまだ半分残ってんぞ天津飯。おばちゃんにチクってやる。
自分がどうしたいのかくらい、多分あいつ本人もちゃんと分かってんだろうけどな。話しにきたから聞いてやったけどあんまり俺からごちゃごちゃ言うべきじゃねえか。
「………あ?お前、」
やれやれと水を飲もうとしたら、荒北と入れ替わりであいつが現れた。
(どうしたい、なんて)
そんなもん決まってるだろ。俺は、
「荒北さん」
食堂を出たところで名前を呼ばれた。下げていた視線を上げた先には、少しだけ不機嫌そうな顔をした黒田が。
「…ハッ!なんだァ、見てたのかヨ黒田」
オメーはいいよなァ。そうやって堂々と嫉妬しても誰にも咎められない。正当化される。“恋人同士”だから。
ただでさえ面倒なそれが、今日は特に憂鬱に感じた。どうせまたノーマルのところへ行く途中だったんだろう。それ以上何も言わずに、教室へ帰ろうとした。
「…荒北さんには」
「!」
「あの人とのことでお世話になったんで、一つだけ」
は、と足を止めると、
「気持ち伝えないって選択肢だけは、選ばない方がいいっスよ」
久々にこいつのこんな凛とした声を聞いた気がする。
ほんと、簡単に言ってくれるなァと思う。今ならあんだけアホみたいにあいつにアピールしてたお前の凄さがわかるぜ。俺には到底真似出来ねえ。
「……まあ、覚えとくわ」
もう笑顔作んのもめんどくせえ。曖昧に笑って教室へと急いだ。あの超ド級のデコボコカップルにまで心配されてるとなると相当だなこれ。
あれからみょうじとは話せてない。同じクラスにいるのに、まるでそばにいないみたいに関わらないでいる。新開とは前と変わらず接してるつもりだけど、勘の鋭いあいつのことだ、もうなにかしら気付いてるかもしれねえ。それでも深く追求してこないってことは、やっぱり俺が想像してることが的中してるからってことだろ。
どうしたいなんて、そんなもん決まってるだろ。俺は誰に何言われようと、あいつが誰とどうなろうと関係ねえし変わらねえ。みょうじがそれで幸せだってんなら、俺はなんにも言わずにそれを全力で支えるし応援する。そうすることであいつが言ってくれた“優しい荒北くん”としてそばにいれるなら、それでいい。
それでいいなら、なんですぐあいつに謝れなかったんだ。
(結局俺はまだ自分が一番可愛いんだ)
160603