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とある国のとある大きなお城に、白雪姫というそれはそれは美しいお姫様が住んでいました。彼女の肌は雪のように白く、彼女の髪はその肌によく映えるほど艶やかに黒く、国の者からも城の者からも慕われていたのですが、彼女には一つだけ大きな欠点があったのです。それは…
「…………」
「……あ、荒北くん?」
「…………」
「あの、つ、続きを…」
「…あー、悪ィ、聞いてなかっ」
「はいこれで四回目!!」
やる気あんの!?とメガホンで椅子をバンバン殴ってる女子にもう一度悪ィと平謝り。最悪だ、俺のせいで全然進んでねえ。せっかく自習時間を練習に当ててもいいって言われて、今こうして全員で台詞練習してたのに。
台本持ちながらやってるんだから台詞を忘れたのが理由じゃねえ。照れとか恥ずかしいとか、そういうのももう今さらだから関係ねえ。けど、
「……ちょっと荒北くん休憩」
「えっ」
「いいから。はいじゃあ先に白雪姫出てこないとこ合わせるよー」
強引に教室の隅の席に追いやられた。主役の白雪姫がリストラとかマジ笑えねえ。何やってんだ俺。
「…大丈夫?荒北くん」
「!」
「お、女の子の台詞だもんね、難しそう…」
ちょこんと隣に座ってきたお前のことで頭一杯で練習どころじゃねえんだよと叫んでやりゃあこのぐっちゃぐちゃの脳内も少しはスッキリするんだろうか。
さっきのこいつと新開とのやり取りが頭から離れない。まだそうだと決まった訳じゃない。早い話、困ったように笑うこいつに直接聞けばいいんだ。新開と、付き合ってんのかって。たった一言。それだけ聞けば、きっとこの混乱も胸騒ぎも落ち着くはずなのに。それでも聞けない。だってもし本当にそうだとしたら、俺、すっげえダセエじゃねえか。わざわざ白雪姫立候補してまで、こいつに近付こうとして、必死こいて。
聞きたい。聞けない。知りたい。怖い。こんなクソみたいな状態で、練習なんか…
「あ、荒北くん」
「……どしたァ」
「…さっき、さ、その」
「…………」
「し…新開くんから、なにか、聞いた…?」
不安そうにビクビクして、それでもさっきみたいな真っ赤な顔してそう聞いてきたみょうじを見て、もう、嫌でも察した。
(…ハッ、バカみてえ)
正直心のどこかで、こいつも俺のこと好きなんじゃないかって、ずっと思ってた。その結果がこれだ。とんだピエロだったってわけだ。笑える。
「……聞いてねえヨ、なんにも」
「!」
「けど、ある程度はわかった。オメー隠すの下手なんだよバァカ」
「えっ、う、そ、ほん、ほんとに…!?」
鼻で笑ってやると、さらに赤くなったみょうじ。人間そんなに真っ赤な顔できんのかと思うくらい。触ったらきっと無茶苦茶熱いんだろうなァ。もうそんなこと、する権利すらねえけど。
「でも、全部は、知らない?聞いてない?」
「おー、全部はな」
「……どう、思った…?」
「どうって?」
「…や…やっぱり、気持ち悪い、かな…お、男同士なのに…」
俺の様子を窺うその目はゆらゆら揺れていた。なんでそういうことを俺に聞くんだろうな。そんなもん、俺も同じなんだから気持ち悪いなんざ思わねえよ。そう言ってやりたいのに、
「…そりゃ、そうだろ」
「!」
口が勝手に言葉を紡ぐ。
「普通に考えて変だろ。俺はまあ、聞いてやる分にはいいけど」
頭がやめろっつってんのに、止まらない。
「でも周りから見りゃ普通じゃねえヨ」
みょうじの顔から赤が消えて、
「……そっか…そう、だよね」
仲良くなる前によく見せられてた、俺の嫌いなあからさまな作り笑いが出てきた。
「ご、ごめんね、変なこと聞いて…」
「……ほんとだヨ、バァカ」
「あ、」
それ以上話していられなくなって、思わず教室を飛び出した。みょうじが俺を呼ぶ声が聞こえるけど、聞かなかったことにしてとにかく走る。
もう可能性がなくなったってわかった途端、傷付いちまえだなんて、ほんっと最低だな。知らなかった。自分がこんなに小さい人間だったなんて。
(さあ、これからどうしようか)
160602