無口2 | ナノ
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「つまり要約すると」
「………」
「自分が白雪姫になることで面白コメディ路線になりなおかつあの荒北が姫…!?というギャップによる宣伝効果で演劇部門一位を狙えるかもしれない」
「………」
「…という名目のもと他の女の子との絡みを阻止しようという大作戦を決行した結果上手くいったってことでいいんだよな?」
「……おう」
「そうか。頑張れよ、白雪姫」
「………」
「………ブフォッ」
「どうせ耐えきれねえんなら我慢すんな余計腹立つわボケナスがァ!!」

お前が白雪姫とかマジかよなんのギャグだよあり得ねえだろ信じらんねえそこまですんのかよあの荒北がそこまですんのかよマジウケるヒィーと叫びながらテーブルをバンバン叩き爆笑しているノーマルの顔面目掛けて全力でおしぼりを投げつけてやった。こないだ久々に喋ったからか珍しく昼飯に誘われたので例の話を聞いてくれるのかと思って素直に今現在の状況を話した数分前の俺ほんとバカ。そうだよこいつそういう奴だったんだよクソ真面目に話して損した。つかいつまで笑ってんだ今度は箸入れの箱ぶん投げるぞコラ。

結局昨日行われた配役決めはノーマルが言った通り、俺が白雪姫役をするということで滞りなく決められていった。ダメ元で言ってみたことなのでまさか本当に決定するとは思っていなかったが、まあ結果オーライってやつだ。これでみょうじ争奪戦みたいな最悪の事態は回避できた。が、こいつみたいに大爆笑するやつがいれば陰でこそこそ言うやつもいるわけで。気にするだけ無駄だと割り切ってはいるがこいつだけはやっぱり許せねえもっかいおしぼり投げてやる。

「つーか誰の許可取ってノーマルさんと飯食ってんスか荒北さん」
「ゲッ」
「こんな奴と飯食うのに許可なんかいらねーだろ」
「とりあえす空気読んで席外してくださいノーマルさんと飯食うのは俺です早く帰れ」
「オメーどんどん性格悪化してってるよな俺の気のせいじゃねえよな黒田コラァ」
「チャリ部の教育方針に問題があると見た」
「オメーが甘やかしてんのが悪ィんだろ二人まとめてぶっとばすぞ」

ガルルルルと番犬のごとく俺を睨み付けてくる黒田。つーか隣座ってそんだけ密着してるくせに文句言ってんじゃねえよほんとめんどくせえなこいつ。ノーマルもノーマルで慣れたのか知らねえけどずっと真顔でスパゲッティ食ってるし。なんだこれ。なに見せつけられてんだ俺。

「てか聞いてくださいノーマルさん!俺のクラスの出し物!ホストクラブ!」
「ふーんボーイか。頑張れよ」
「違いますよホストですよ貢ぎに来てくださいね絶対来てくださいね?」
「ナンバーワンになったらな」
「なったら来てくれるんですね?」
「アホかお前がナンバーワンになれる世の中なら荒北なんかとっくに彼女出来てるわ」
「ノーマルちょっとその無駄に小綺麗な面貸せボッコボコにしてやっから」
「えーやだー荒北くんこわぁーい」
「荒北さん!!」
「っとにめんどくせえなオメーら…あ?」

あまりにイラッとしたので怒鳴り散らしてやろうと思ったら、二人の表情がパッと変わった。ニヤニヤしながらわざとらしく怖がっていたノーマルも、そんなノーマルを庇おうとしていた黒田も、驚いたような顔をして俺を見ている。いや、驚かれる意味がわかんねえんだけど。俺じゃなくてもキレるだろこの流れは。つか、あれ、俺じゃねえな。俺の上見てる?なんだ?

首をかしげるつつ頭上を見ようとすると、後ろから肩を叩かれた。なんだ誰かいたのかよと後ろを見たら、

「はっ、え、みょうじ!?」
「ご、ごめんね、ご飯中に…」
「いいいいいや別に大丈夫だけど!急にどうしたァ!?なんかあったのォ!?」

俺の背後に立っていたのはなんとみょうじだった。ビックリしすぎてどもっちまったしまたノーマルがニヤニヤしだしたけど気にしてる余裕はない。みょうじがどこか不安そうな表情を浮かべていたからだ。慌てて立ち上がり向かい合わせになると、みょうじは目をそらしながらえっと、と弱々しい声を出した。

「あ、あのね」
「おう、なんだ、どうした」
「……え…演劇のことで、話があるんだけど…」
「あっ、そうなのォ?なんか変更とかあった?」
「う、うん、少しだけ。今、大丈夫かな」
「全っ然大丈夫。ちょっとだけ待っててネ、すぐ食い終わるから」
「わかった。ごめんね」
「気にすんなっつーの」

なんだ何事かと思えばそれだけか。ならあと少しだしさっさと飯食って話聞いてやらねえと。おずおずと隣に座ったみょうじに少し顔がニヤけそうになったのを必死で堪えつつ、唐揚げを頬張った。





(おいおい俺ら完全に空気にされてんぞ)
(もうこのまま抜けちゃいましょうよ)


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