無口2 | ナノ
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「……ということで多数決の結果、演劇のテーマは白雪姫に決まりました!」

文化祭の出し物の進行役の女子とかクラスメートの楽しげな声を遠くに聞きながら眠気と必死に戦っていた。めちゃくちゃ眠い。けど前にあんまり寝ちゃダメだよとみょうじに言われたので以降は注意してる、つもりなんだけど、眠い。どうしようもなく眠い。やばい。ちょっと、なにか、目が覚めるもの…あ、そうだ、みょうじの方見とこう。これでちょっとはマシになるはず。そう思いながら斜め前の席にいるみょうじを見つめた。にこにこ楽しそうに話を聞いてやがる。可愛いやつ。癒されはしたけど眠いのは眠い。でもこのあとどうせ配役決めとかあるんだろうし起きとかねえと。変な役やらせれたらたまんねえからな。セリフ覚えんのも面倒だし無難に木とか村人とかそんなんで…

ボーッとそんなことを考えていたが、次の瞬間一気に意識が覚醒した。

「じゃあもう必然的に王子様役はみょうじくんで決定だよね?」
「!?」
「賛成賛成!」
「てかみょうじくん以外いないでしょ」
「おいコラ女子!」
「そりゃまあみょうじ背ェあるしイケメンだけどそんな即決ありかよ!」
「はいじゃあ王子様役はみょうじくんで決定、と」
「「「オールスルー!?」」」

おかしな漫才を繰り広げてる連中をよそに、みょうじはふるふると首を振っている。王子って。王子様って。そりゃこのクラスのメンツ見りゃみょうじが最適だろうけど、でも、みょうじが王子様って。いろいろ問題あるだろセリフとかどうすんだよまあ白雪姫なら最後の最後にしか出てこねえから少ねえだろうし今は前と違ってちゃんと喋れるようにはなってっけどこいつ絶対緊張して喋れなくなるだろうしなにより王子様ってそれ白雪姫と絡むじゃねえか女子と絡むじゃねえかそこ一番気になるんだけどォォォ!?

口には出してないものの顔には思いっきり出してるからか近くの席の奴らにはビクつかれたが関係ねえ。なんとか阻止しねえと。

「ちょっと待てヨ。みょうじの意見も聞かねえでそんなホイホイ決めていいのかァ?」
「え?みょうじくん嫌なの?」
「い、嫌というか、そん、な、大役、俺なんかに、務まらないというか…!」
「そんなことないよお!みょうじくんなら立ってるだけでも十分だしい!」
「で、でも、」
「お願いみょうじくん、こんなこと頼めるの、みょうじくんしかいないの!」
「!」
「いいじゃんみょうじ、こんな機会そうそうねえぞ?」
「何事も経験してみるもんだと思うぜ」
「みょうじくんが王子様だったら絶対うちのクラスが部門一位獲れるよね!」
「っ、オメーらなァあんまそういうこと言うなっつーの!余計プレッシャーになるし嫌がるに決まっ」
「わ、分かった」
「はあ!?」
「俺、頑張ってみる!」
「「「おおおお〜!」」」
「おおおお〜じゃねーヨみょうじもなに無駄にやる気になってんのォ!?」
「む、無駄にじゃないよ!俺、本当に、頑張るから!」
「うっ、」

握りこぶしを作って力強くそう言ったみょうじは、たしかに本気のようだった。ちょっと可愛い…じゃなくてなんでそんなやる気出してんだよ。あれか、みんなに頼られてんのがちょっと嬉しいとかいう感じか。まあ普段はそういうキャラじゃねえから張り切りてえのもわかるけど、けどさァ…!

「はい、じゃあ王子様役が決まったところで」
「おいさらっと流してんじゃねえヨ!」
「次はメインの白雪姫役!やりたい人は挙手!」
「無視してんじゃねえヨ…つかちゃっかり全員挙げてんじゃねえぞコラァ!目ェ据わってんぞオメーら!」

ヤベエこれはマジでヤベエぞみょうじが王子役に決まった時点でこうなるのは分かってたけどそれにしたってそんな堂々と…下手すりゃ戦争…ダメだ、どうしても女子連中があいつのこと囲んで迫りまくって最終的に全員白雪姫ですとかいう意味わかんねえことになる結果しか見えねえ…!

「うーん、やっぱりこうなるよね…じゃあここはくじ引きで」
「ちょっと待ったァ!!」
「え」
「…お…俺に、名案があんだけどォ…」

全員の目が一斉にこちらを向いた。それはみょうじも同じ。

「荒北くん…?」

これは、きょとんとしているこのみょうじのためだ。断じて、俺のためではない。そう自分に言い聞かせ、言葉を発するために軽く息を吸った。





(クラスにとっても悪くはねえ話だろ)


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