無口2 | ナノ
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(…………あ?)

便所帰り、廊下の端に女子の人だかりが出来ていた。瞬間嫌な予感が頭をよぎる。まさか俺が離れてる間にあいつまた囲まれやがったのか。そう思ってダッシュでそこへ駆け寄った、けど、それなら背ェ高ノッポのあいつの体ぐらい女子の波からはみ出して見えるはず。冷静にそれに気付いたのは、人だかりの中心が見えた時だった。

「ははっ、ありがとねー。あとで大事に食べさせてもらうよ」
「っ、テメーかよややこしいなバァカ!」
「あ?なんだよ荒北じゃねえか」

女子の大群からなにやらお菓子らしきものを受け取っていたのは去年同じクラスだったノーマルだった。こいつ、黒田と付き合ったくせに相変わらずアホみてえにモテやがって。爆発しろ。

俺の声に気付いたノーマルはニヤニヤしながらこっちへ近付いてきた。久々に会ったけどやっぱり腹立つ顔してんなこいつ。

「さっきそこのクラス調理実習だったみたいでよ、ほれ」
「ケッ。どうせ黒田に全部捨てられんだろ」
「否定できない自分が憎い。つーか、さっきテメーかよっつってたよな。誰と勘違いしたんだよ」
「は?や、べ、つに…女子が邪魔だったから誰のせいだと思ったんだヨ」
「ふーん?ま、悪かったなみょうじじゃなくて」
「………ハアアアアア!?てっめ、な、なに言って……!!」
「ぶっは!!おま、マジかよ素直すぎるだろ!!」
「なっ、」

ケタケタ笑うノーマルは明らかになにか知ってる風だった。なんでクラス離れてる上に最近あんま会ってなかったこいつにすら感付かれてんだよどんだけ分かりやすいんだよ俺…!

「ほら、俺あいつとクラス一緒なんだよ」
「あいつ……っ、新開か!」
「そうそう新開新開。あいつ楽しそうに話してたぜ、あの荒北が噂のノッポと仲良くなろうって頑張ってるって。マジウケる」
「クソほどもウケねーよこのボケナスがァ!!」
「んだよ口悪ィな。せっかくこの俺が相談に乗ってやろうかなんて思ってたのに」
「んなもんこっちから願い下げだヨバァカ!テメーは黒田と二人仲良く爆発しとけ!」
「それは断固として拒否する」

すげー真顔でキッパリとそう言い放ったノーマル。黒田のやつ本当にこいつなんかと上手くいってんのかよ。練習中はウゼーくらいのろけてはくるけど、ノーマルの態度は付き合う前とてんで変わってねえし。男同士ってそういうもんなのかァ?

つーかもうすぐ授業始まる。新開はまた部活でぶん殴るとして、ノーマルにこれ以上追及されて全部バレちまったらめんどくさいことこの上ねえからな。さっさと教室戻るか。

「おい、荒北」
「あ?」
「気ィ向いたら話くらいは聞いてやるよ」
「!」

そう言って背を向けたノーマルは、多分あいつなりに俺のことを気遣ってくれてるんだろう。声とか口調からは一切感じられねえけど。

「……ハッ!気ィ向いたら話してやんヨ」

けど、そうだな、黒田との件では散々付き合ってやったんだ。今度は俺の方に嫌ってほど付き合ってもらうかァ。





(ある意味最強の味方かもな)


160523