無口2 | ナノ
 食堂での作戦会議

「………あ?お前、」

やれやれと水を飲もうとしたら、荒北と入れ替わりであいつが現れた。

「こ、こんにちは、ノーマルくん」

噂をすればなんとやらってやつか。現れたのはみょうじなまえ本人だ。たどたどしい言葉とは裏腹に、その顔は少しばかり真剣だった。多分こいつとちゃんと話すのは初めてかもしれない。

「……まあ、座れば?」
「あ、うん。急にごめんね。失礼します」

礼儀正しくそう言うと、俺の向かいの席…さっきまで荒北が座っていた席に座ったみょうじ。まだあいつが食いっぱなしで放置してた天津飯が置いてあったが、まあそんなことは二の次だ。

わざわざ俺に会いに来たってことは、何かしら用があるんだろう。恐らく、というかほぼ絶対、荒北関係で。俺もお前に聞きたいことがあったからちょうどよかったぜ。

「それで、なんか用かよ」
「う、うん……その、ノーマルくんは」
「この人に用があるんならまず俺を通してもらっていいスか」
「えっ!あ、ご、ごめんなさい…?」
「あーごめんそこのバカは無視してもらって大丈夫だから」
「バカってなんスか!」

突如乱入してきた黒田をいつも通り適当にあしらうと、ひでえだのなんだのぶつくさ言いながらいつものように俺の隣に座って腕に絡み付いてきた。うぜえ。しかし相手にしたらしたでまた長くなるのでそれすら無視しながら、みょうじに話の続きを促す。

「あ、えっと、その……ノーマルくん、は、」
「おう、なんだ」
「……あ、」
「………」
「荒北くん、と、つ、付き合っ」
「てるわけないだろこの人と付き合ってんのはこの俺ですふざけんな!!」
「えっ」
「っ、声でけーんだよこのボケここ食堂だぞ!!女子が誤解するだろ!!」
「誤解ってなんですか事実じゃないですか!!むしろ全校生徒に今すぐ知らしめてやりたいくらいなのに!!」
「俺の輝かしいパーフェクトライフ唯一の汚点を晒し上げる気かてめえ!!つか、お前もお前だみょうじ!なんで荒北なんかと…て…あ、」

目をまあるくして顔を赤らめているみょうじを見て、すぐ合点がいった。そうか、そういうことか。ならあの日のことも全部繋がる。なんだよこいつら、とんだ鈍感コンビだったってことか。なるほどねえ。

本来なら男の恋路なんざどうでもいいし背中を押すなんざもっての他だけど、あいつには借りがあるからなあ。ちらりと隣を見て、ため息を吐いた。

「…安心しろよ。俺とあいつはお前が思ってるような関係じゃねえし、このバカが叫んだ通り今は一応こいつと付き合ってる」
「一応てなんスか」
「そ…そっか……あっ、なら、ご、ごめんね、なんか、変なこと聞いちゃって…!今のは、忘れて…」
「いーや、そいつは出来ねえな。前だって勝手に勘違いして、勝手に嫉妬の眼差し向けられたんだからなこっちは。とんだとばっちりだぜ」
「!!」

おー、びっくりしてるびっくりしてる。やっぱりだ。前に一回荒北と飯食ってる時に乱入してきたこいつは、たしかに俺のことを敵視してた。すっげえ分かりにくかったけどな。荒北といいこいつといい、さっさと素直に話し合えばすぐ解決することなのに。

「…つーことで、是が非でもくっつけてやる」
「え」
「もういろいろ知っちまったしなあ。なのに知らんぷりするほど非情な男じゃねえんだよ俺は」

ニヤリと笑うとキョトンとした顔が返ってきた。

「どうする。お前が本気だってんなら、この俺が力を貸してやるよ」

もうこっちにゃお前らが両想いだってことがわかってる。それなら一つだけすげえいい案があるんだよなあ。とっておきのいい案が。

「……お…お願い、します…!」
「よし、任せろ」

ぶちかましてやれよ。そう言ってハイタッチしようとしたら黒田に邪魔された。しばく。




160615