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「もう準備万端じゃねえか荒北姫」
「ああ!?」
「メイクもバッチリだな靖友」
「っせ!!オメーらだけは絶対見にくんなよ!!」
「安心しろよ最前列の席押さえてっから」
「ボケが!!」
文化祭当日。うちのクラスの出番はもうすぐだ。衣装に着替えて舞台裏で待機しているところへ現れたノーマルと新開に思いっきり舌打ちしてやった。なんで部外者のオメーらがこんなとこにまで来てんだよ普通に考えて入ってきちゃダメだろなんで通したんだよバカじゃねえの。ツッコミ所多すぎてまだ劇が始まってすらいねえのにどっと疲れた。
「ったく…つーかあいつは?黒田。一緒じゃねえのかヨ」
「一丁前にホストやってっから放置」
「あー…」
「俺たちそこで会ったから一緒に様子見に来たんだ。なまえは?ちゃんと舞台出れそうか?」
「大丈夫だヨ。なんだかんだでやるときゃやるだろ」
ちらりと後方を見ると、熱心に台本を確認している王子がいた。出番はラストだけとはいえ、一番大事なシーンだからなァ。まあもし台詞飛んだり間違えたりしても、なんとか補助には入ってやれるだろ。
三人の視線を一気に浴びたせいか、さすがにこちらに気付いたみょうじ。途端にぱあっと笑顔になって走ってきた。犬かよ。
「新開くん!ノーマルくんも!」
「よっ、王子様。ちゃんと見てるから頑張れよ」
「うん!」
「……あれ?つかオメーノーマルと知り合いだったっけ」
「うん。最近、友達になったんだ」
「俺はどっかのブサイクと違って誰とでもすぐ仲良くなれるんですぅ〜」
「こいつ…!」
「ってことで、ぶちかましてやれよ王子」
「うん!ありがとう、ノーマルくん!」
「何をぶちかますんだヨ…」
二人の謎のやり取りにため息を吐いていると、さりげなくみょうじの頭を撫でた新開。この野郎、これ見よがしに…
(けど、今に見てろよなァ)
ぶちかましてやんのは俺の方だ。
「…そろそろ時間だぜ、みょうじ」
「あ、うん!」
頑張るね、と二人に手を振るみょうじを無理矢理引っ張りその場をあとにした。
「…わっかりやすいな荒北のやつ」
「だな。さて、俺たちも行こうかノーマルくん」
「特等席特等席〜」
「泣いても笑っても今日が最後!今日が本番!絶対部門1位獲るぞー!!」
「「「おおー!!」」」
開演五分前。全員で円陣を組んで士気を高め合う。みんなやる気満々だなァと苦笑いしていると、真剣な顔をしたみょうじと目が合った。
「…どしたよ。さすがに緊張してきたかァ?」
「……それもある、けど」
「?」
「俺、頑張るよ」
「ハッ!もう何百回って聞いたヨ」
「えっ、そ、そんなに言ってた!?」
「しつこいって意味だよバァカ」
オメーが頑張ろうとしてることなんざここにいる全員が知ってるし、よくわかってる。
「もしミスっちまっても気にすんな」
「え」
「俺が全力でカバーしてやっから」
そう言って、ぐしゃりと頭を撫でた。
俺だってもう吹っ切れたんだ。意地でも意識させてやんよ。たとえどんな手を使うことになっても。
「…だから、なんにも心配しねえで適当にキラキラスマイルでも振り撒いとけヨ」
俺の言葉と同時に、ナレーションが始まった。まずは序盤。とりあえず疲れねえ程度に頑張るかァ。
(メインはあくまでラストシーンだ)
160611