連載短編 | ナノ


▼ 診断詰め合わせ

(二人でじゃれてもらいました)


@ボケナス


「うへあっ!」
「ハ!?」
「あ、」
「ちょ、なまえチャン!?どしたの!?」
「足、ぶつけたあああ…!」
「さっきガアアアンっつったのぶつけた音かヨ!!」

足というか脛か。脛をやられた。おのれ、この、微妙な段差のせいで…!一体誰だここの階段の一段目だけこんな造りにしたの!いつもなら注意してるのに!油断してた!痛い!すっごい痛い!

「だ、大丈夫ゥ…?」
「だい、じょばない…うう…」

思わずうずくまり脛をさする。最悪だこれ絶対明日あおたんになってるやつだ。湿布貼って寝なきゃ。

「ご、ごめんなやす、もうちょっとしたら、大丈」
「ぶ、じゃねーんだろォ?無茶すんなヨ」
「うえっ、」

はあ、とため息をついたかと思えばヒョイッと簡単に抱き上げられてしまった。ち、力持ち…!

「って、そうじゃない!降ろせやす!ここ学校!」
「だいじょばないんだろーが。黙って抱っこされてろ」
「もう大丈夫だから!降ろせ!」
「キコエマセーン」

これだけ近かったら聞こえてるだろと怒鳴ってみたものの、結局教室に着くまで降ろしてもらえなかった。



@無口


「なー、まだかヨ」
「わ、分かってるよ、ちょっと待ってね、もうすぐだから…」

隣の机の上に座り、駄々をこねたようにみょうじを呼ぶ。今日は練習がオフだったので一緒に帰ろうぜと誘ったのだが、まだ日誌が書き終わらないらしい。俺のためにと急いで書こうとしている姿を見るのは楽しいので、本当のところ待つこと自体はそれほど苦でもなかった。それにこうしてぶつぶつ文句を言えば困ったように目尻を下げるのが可愛いので、つい意地悪しちまう。まあもう言ってる間にも終わんだろ、とは思ったが、あと一回だけ。

「…早くしろよなァ」
「!」

ぐいぐい、と制服の裾を引っ張ってみた。あ、でもあんまやり過ぎたら泣くかなコイツ。

その時、俺がなに言ってもずっと日誌とにらめっこだった顔が、やっとこちらを向いた。目を丸くしてぱちくりしてやがる。

「…じ、ジョーダンだヨ。ゆっくりでいーからさァ…」
「………いや、」
「あ?」
「なんか、い、意外だなあって」
「意外?」
「あ、荒北くんも、そういう可愛いことするんだって…」

そう言ってにへらと笑ったみょうじ。ちょっと待て、いま、か、か、可愛いって、

「っ、はあ!?可愛くねーよバァカ!!」
「えっ、あ、ごめ、ごめんね!男なのに、か、可愛いなんて、嬉しくないよね!ごめんね!」

必死に謝り、早く書くね!とまた慌てて日誌と向かい合わせになったみょうじを見て、余計恥ずかしくなった。



@ノーマル


「なんでこれくらいの問題が解けねえのかがわかんねえ」
「みょうじさんの教え方が悪いからだと思います」
「よしわかった一人ぼっちでお勉強頑張れ」
「嘘ですごめんなさい天才ですみょうじさん天才です」
「持ち上げ方が雑すぎんぞお前」

昼休み。授業でわかんないとこがあったからと図書室にて黒田と二人で勉強中。去年までやってたから頭ではわかってんだけど、いざ教えるとなると難しいもんだなこれ。いま俺が思い浮かべてる知識をそのままこいつに移せたら楽なんだけど。

うーん、と頭を抱える黒田に俺も頭を抱えたくなった頃。何の気なしに開いていた教科書を見てハッとした。俺もめちゃくちゃ苦手だった公式だ。去年先生にさんっざん聞きまくって克服したからよく覚えてる。

「おい黒田、俺これならちゃんと教えられるかも」
「え?」
「これ。この公しっ」

き、と前に乗り出したと同時に黒田も身を乗り出したため、コツ、と額がぶつかった。動きが緩やかだったから痛みはなかったけど、ち、近い。

「………」
「………」
「………」
「………(スッ…)」
「いやしねーから!!目ェ閉じんなバカ!!」
「えっ、なんでですかあり得ない!」

すぐに顔どころか体ごと黒田から離れる。あぶねえあぶねえ、おかしな空気になるところだったぜ。こんな公の場でキスなんかするわけねえだろただでさえまだ抵抗あんのに。これ言ったらガチ泣きするから言わねえけど。

「ここまでしといてお預けなんてひどいっス…」
「不可抗力だろ調子乗んな」
「…………」
「………っ、ウザい!その顔!やめろ!」
「だって…」
「…次のテスト満点取れたら、し、してやらねえでもねえけど…」
「!!!」

くそ、だんだんこいつに甘くなってる気がするぞ俺…!



@月光


「なんだよ、これ…」

お盆だからと久々に帰省した俺は、開いた口が塞がらなかった。父さんたちと学校の話や世間話をしてから、あいつに会わないよう部屋へ逃げ込むと、そこは俺の知らないうちにところどころ整理されていた。それだけなら母さんがやってくれたのかと納得できたけど、どこか様子がおかしい。コルクボードに貼ってあった中学の時の野球部の写真や、集合写真、友だちとの写真が一枚もなかった。それに、机のそばに立て掛けてあったバットとグローブも。ベッドの下や押し入れの中を探したけど見当たらない。どうして。おかしい。母さんなら知ってるだろうか。でも、俺になんの声掛けも無くこんなことするだろうか。

「お帰り、オニイチャン」

リビングに戻ろうと振り返ると、扉の前には大っ嫌いな弟の雪成がいた。久しぶりに見た顔は入寮する前と変わらない、憎たらしい笑顔を浮かべている。そこですべてが繋がった。

「……お前か、これ」
「もういらねえと思って処分してやったんだよ」
「っ、いくら嫌いでもやって良いことと悪いことがある!!」
「嫌いって?ああ、野球のことだろ?センスが俺より劣ってるからって、なにも嫌いになることねえだろ」
「ふざけるな!!」
「っ!」

頭が真っ白になって、気付いたら胸ぐらを掴んでぶん殴ってた。でも、大きな音を立てて床に倒れ込んだ雪成を見てすぐ我に帰る。初めて弟に、雪成に手を出してしまった。

「あ…っ」
「いっ…てえなあ…」
「お、お前が、こんなこと、するから…!」

力の制御なんかしてない。そんな余裕もなかったから、むしろ腕を振り抜いたくらいだ。その証拠に雪成は倒れてる。

(なのに、どうして笑ってるんだ、こいつ)

明らかに異常なその姿を見ていられなくて、一目散に部屋から逃げ出した。



「あーあー…絶対痕残んじゃんこれ…」

熱くて熱くて仕方ない頬を、いとおしむように撫でた。










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160511

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