連載短編 | ナノ


▼ 臆病な恋

※現パロ




驚いた。どうせ積もらないだろうと思っていたらあっという間に辺り中を真っ白にしてしまった雪。こんな日に積もるだなんてずいぶん乙なもんだなあと窓の外を眺めた。それにしても寒い。

「この調子じゃ冷蔵庫に入れなくても勝手に固まりそうだなあ」

あとは固めて切り分ければ完成する生チョコを見て呟いた。えーっと、誰に渡すんだったかな。小太郎くんはいらぬとな言いつつ食べるだろ、元就さんは多分聞く前に催促するだろうし、官兵衛くんは半兵衛くんが食べればついでにみたいな感じで食べるだろうな。秀吉さんのとこは僕が持っていかなくてもおねねちゃんの美味しいやつがたくさんあるだろうけど、一応持っていくか。あと僕もいくつかつまませてもらおう。

本命はもちろん決まってるけど、おそらく本人には伝えないだろうな。まあ当たり前だけど。美味しいって言ってもらえたらそれでいいや。

「……いやいや、女子か僕は…」

女々しすぎるだろ。なんだこれは。いい年こいて、我ながら恥ずかしい。でもさ、こうして自分で渡さないと。あの子どうせ本命くれないもん。もういっそ本命は諦めて、僕自身が本命を渡すっていう作戦ね。小太郎くんたちの分はその延長線…というかまあ、普段お世話になってるしそれも含めてだな。

とりあえずチョコが固まるのを待って……

「こーんにーちわー!」
「っ、くのいち!?なんで、」
「すっごいですねー、なまえさん外見ました?雪!雪だらけ!」

にゃははと笑いながら現れたくのいち。僕としたことが、玄関が開いたのにも気付かなかったなんて。

この子には勝手に入ってきていいって言ってるからね。そこは別に驚かないんだけど、なんでこんな時間に?時計を見るともうすぐ3時だ。たしかくのいちは彼と同じ職場で働いてて、てっきり今日も遅くまでかかるのかと思っていた。終わったら彼にチョコを渡すだろうから、その報告に来たときに僕も渡そうと思っていたのに。

「……今日、お仕事は?休みだったの?」
「そうですよー。あれ?言ってませんでしたっけ」
「多分。忘れてるだけかもしれないけど」

まあおそらくそれはないけどな。僕が君の言っていたことを忘れることはまずないと思う。

「まあ休みなら休みとして、どうしてここに?まさか今日がなんの日かなんて知らないわけじゃないだろ?」
「ふっふっふー、知ってますよもちろん。だからなまえさんのチョコレートをいただきに…あれえ?まだ完成してにゃい?」

僕の肩からひょっこり顔を覗かせチョコを発見したくのいち。そうだ、そういえばまだ切り分けていなかった。というよりその前に固さ確認もしてないし。

まさか渡す前に見られちゃうとは思わなかったな。開けたときの楽しみが減ってしまった。

「ほほーう、今年は生チョコですかい旦那」
「去年は無駄に凝っちゃったからね。今回はシンプルに、ってことで」
「でもでも今年も美味しそう…完成が待ち遠しいぜい!ってことで、それまであたしからのチョコレートどーうぞ!」
「!」

バッとどこからか取り出した、ピンクの包装紙でラッピングされた箱。本当にどこから取り出したのやら。苦笑いしつつありがとうとそれを受け取る。貰えるのはわかってたし待ってたけど、いざ貰うととてと嬉しい。にやけてないか心配だな。本当はハグの一つや二つしたいところをぐっと堪えて頭をポンポンしてやった。

「もう開けちゃっていいの?」
「どぞどぞっ。なまえさんのチョコにははるかに劣りますけどね〜」
「そんなことないって」

僕のチョコこそ、君のに比べると断然劣るさ。もっと自信持てばいいのに。

「……ケーキか…すごいな、またレベル上がってるじゃないか」
「えへへー、乙女は日々進化し続ける生き物なんですよう」
「羨ましいよ、僕の進化はもう何年も前に終わっちゃったからな」
「何を仰いますやら!年齢のわりに若いと思いますけどねん」
「フォローとして受け取っとく」

だらだらと話して過ごすこの時間が好きだ。しかし彼女は決まった日や決まった時間に遊びに来ることは少ない。それこそ猫みたいに気まぐれで、ふらりと現れてはふらりと帰っていく。それが恋の駆け引きからくるものならどれだけいいか。彼女はそんなに器用ではないし、むしろそっちに関しては臆病な方だ。そんなところも可愛いのだが。

それ以前に、彼女が日々恋い焦がれている相手は僕じゃない。

「……一緒に食べようか」
「えっ、あたしはいいですよ。これなまえさんのために作ったんだし」
「生チョコ食べて帰るんだろ?まだちょっと時間かかるし、それまでなんのおもてなしもないってのも悪いし」
「でも……いいんですか?」
「僕が一緒に食べたいんだよ」

そう言うと観念したかのように大人しくテーブルへ向かったくのいち。そう、それでいい。どうせそんなに量もないし、この生チョコも二人で一緒に食べてしまおう。きっととびきり美味しいんだろうな。









(少しでも一緒にいたいから、なんて)











140214

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