連載短編 | ナノ


▼ 本日のミッションは

「…………」
「…………」
「……美味しいですね」
「そうだネ」
「…………」
「…………」

いつもの場所でいつものお昼御飯をいつもと同じ大切な人と一緒に食べる。おれの大好きな時間の一つだ。その時間、たまにある沈黙は慣れっこなのでもう何も言うまい。けど、どうしても気になることが一つだけ。

(なんか、めっちゃ見られてる…!)

ちらっ、ちらっ、と見られることはよくあるけれど、こんなにもあからさまにガン見してくるなんて珍しい。しかも恐らく超真剣な顔でだ。うわあすっごい気になる。なんだろう、今日は何を企んでるんだろう。あーんをしたい…ならもう何度もして慣れてるし最近はさらっと伝えてきてくれるから違う。キスをしたい…ならもっと会話ぎこちなくなるだろうし無駄に会話振ってくるだろうし多分これも違う。なら、なんだろう。

どちらかといえば自分からアプローチするのが苦手な荒北先輩。そんな彼と今後も末長くお付き合いさせていただくためにも、出来る限り言葉少なな(そして行動力の低い)荒北先輩の思考や気持ちを汲み取ってあげなければ。そう決意して早数ヵ月。それでもまだまだわからないことだらけだなあと苦笑いした。こんなことを考えてる間も、そして今だって鋭い視線は手に持っているハンバーガーではなくおれに向けられている。んんんんんん、今日のは難易度高いなああああ。さて、どうしたものか。おれも荒北先輩ももうすぐ食べ終えてしまうし、そうでなくともこのままではチャイムが鳴るまでだんまりかもしれない。とりあえずこのままにしておくのもなんだし、なにか会話を…

「なあ」
「あっ、はい」
「今日さァ」
「はい」
「五時間目移動なんだわ」
「あ、そうなんですね!なら戻らないとですね」
「おう」
「じゃあそろそろ」
「あ、別にオメーまで急がなくていいから。ゆっくり食ってろヨ」
「へ?あ、ああ、ありがとうございます?」
「おう。じ…じゃあな!みょうじなまえ!!」
「え」

唐突に叫んだかと思えばそのまま颯爽と走り去ってしまった荒北先輩。しかも謎のフルネーム。

「…結局何企んでたのかわかんなかったなあ…」

まだまだ修行が足りないな、と残りのサンドイッチを頬張った。













「やったヨォォォォ名前呼べたァァアアアア!!」
「なにっ、本当か荒北!」
「これで課題1クリアだな。早かったじゃねえか靖友」




161009

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