連載短編 | ナノ


▼ 診断詰め合わせ3

(閉じ込められた、だと…?)



@ボケナス



「……ど、どうする、やす」
「どうもこうも、飲まなきゃ出れねえんだろォ?」

突然なまえと二人して放り込まれた謎の空間。空間というか、部屋なんだろうかこれは。まあどちらにせよ身に覚えのな場所には変わりない。ここがどこかってのも問題だが、なにより出口が見当たらねえのも問題だった。窓もねえしドアもねえ。天井も床もただただ真っ白でなにも見当たらない。

ただ二つ、壁に貼られた奇妙な紙と奇妙な薬を除いて。

「…俺かやすかがこの薬を飲めば出れる…ほんとなのかなあー、まずここほんとにどこなんだろう…」
「この薬自体も意味わかんねーけど、それ以前の問題だからなァこれ」

閉じ込められた理由も方法もわからない。呆然としていた俺となまえが見つけたのは謎のメッセージと謎の薬だけ。飲めばここから出してやるということと、その薬の効果が書かれている。まずこんな怪しい場所で怪しい薬を指示通り飲めるかって話だし、飲めば本当に出してもらえるっつー確証もねえ。しかもその薬の効果ってのがまた胡散臭え。

「飲めば、三日間、幼児か…」
「………やっぱやめとこうぜ。ただでさえこんな意味わかんねえ場所に閉じ込められたんだ、これ以上意味わかんねえことになったら…」
「でもここから出る手がかりはこれしかないだろ?」
「まあそうだけどさァ…」

小さな瓶に詰められた薬を揺らしながらううんと首を捻ったなまえ。あ、やべえ、なんか嫌な予感がする。

「…よし」
「!」
「とりあえず行動しないと始まらないしな!やってみよう」
「待っ、それなら俺が飲むから貸して!」
「え、いいよ俺が飲む」
「ダメだオメーはダメだ!」
「ど、どういう…」
「いいから貸せ、俺が飲む」

嘘かほんとかわかんねえけどもしほんとに子どもになんかなられちゃたまんねえ。ただでさえ可愛いのにもっと可愛くなっちまうし抵抗力なくなっちまうし下手すりゃ危ねえ奴に誘拐されかねない。理由なんざこんだけありゃ十分だろ。

「…よくわかんないけど、無理するな!俺はいいけどやすは弄られたらすぐ怒るだろ?」
「すぐ怒るってなんだヨ!」
「そういうとこだってば…いいからここは俺に任せ」
「だーめだっつってんだろ寄越せバァカ!」
「あっ!こらやめろ乱暴するな!薬こぼれる!」
「手ェ離せ!」
「そっちが離せ!」
「だから…つわっ!?」
「あっ」

無理矢理奪い取ろうと頭上に挙げられたなまえの手を掴んだ瞬間、瓶が滑って落ちてきた。もちろん中身の薬も一緒に。そうしてぼわんという音と同時に立ち込める煙。なにも見えない。ああやっちまったと頭を抱えたその時、ガチャリ、と何かが開いた。

「あっ!や、やった!開いたぞやす!」

煙が少しずつ薄れてきた。なまえの声はさっきとなんら変わっていない。

「よかったーなんとか出れそ…あれ?やす?」

そしてはるか頭上から聞こえてくる。煙はすっかり晴れていき、ようやくなまえと目が合った。俺を見下ろすなまえは口許をヒクつかせて苦笑いしている。ということはつまり、

「……………う…嘘…」
「うしょじゃねーヨ」

そういうことだチクショー。





@無口



ひっ、と小さく悲鳴を上げたみょうじを庇うようにすぐ前に出て、そのまま手に持った金属バットで相手の頭をぶん殴った。地面に打ち付けられたそいつはたちまち消えていく。数字のカウントが9から8になった。

「いいかァみょうじ、絶対俺のそば離れんなよ」
「わか、わかってるけど、大丈夫!?無茶しないで、荒北くん…!」
「ハッ、無茶しねえと無理だろこれ」

自嘲気味に笑いながら薄暗い部屋を見渡す。テレビやゲームでしか見たことがない、実際に存在するはずのないと思っていた架空のクリーチャー。所謂ゾンビってやつか。そいつらがぞろぞろノロノロ俺らに襲いかかってきやがる。ここがどこでいつどうやってなぜ俺たちが閉じ込められたのかはわからない。気付けばみょうじとここにいて、手には頑丈な金属バット。だったらやることは一つだろと近くまで来ていた1体を倒すと、突然壁に現れた数字の書かれたテレビ画面。10から9に変わったそれは、恐らくカウンターだ。その数だけこいつらぶちのめしゃいいってことかと混乱した頭のままバットを振り回しているが、状況が状況なのでやりづらいことこの上ない。

(せめて、閉じ込められたのが俺一人だったらなァ)

当然のごとくビクついて行動不能になってるみょうじを守りながら戦うってのはなかなかに難しい。けど、あと8体。無茶でもなんでも、なんとかして0にしねえと。とりあえず近いやつから順番に

「荒北くん!!」
「あ!?どうし…っ」

みょうじの声にハッとして、言葉に詰まる。ノロノロだったはずの奴らの動きが急に変化して、こっちに向かって飛びかかってきやがった。やべえ攻撃間に合わねえ、とバットで防御しようとした、ら、

「ご…めんなさいっ!」
「え、」

突然俺の前に出てきたみょうじが、振り上げたバットでゾンビを叩き落とした。ズドン!と大きな音を立てて床に叩きつけられたゾンビはもちろん消滅。カウントも7に変わった。

「荒北くん、大丈夫だった!?」
「……へ、あ、お、おう」
「間に合って、よかったぁ…お、俺も、戦うから!」

荒北くんも、俺から離れないでね。

思わずポカンとしちまった俺に対して、そう言ったみょうじ。そうだよ、忘れてたけどこいつ無茶苦茶怪力だったんだ。それにしたってさっきのビクビクから変わりすぎだろと思ったが、全部俺を守るためだったんだろ。

「…頼りにしてるぜェ、みょうじチャン」
「う、うん、頑張る!」

前言撤回。こいつと一緒でよかったぜ。




@ノーマル



【どちらかが相手の額にキスをすれば出口が現れます】

壁に浮かんだ紙にそう書かれていたのを見て、よっしゃ楽勝キタコレと思っていた俺の余裕は一瞬で打ち砕かれてしまった。他の誰でもない、目の前にいる、このクソ白髪の放った一言で。

「嫌です」
「………………………え?」
「嫌です」

聞き間違いかと思って聞き直してみたがどうやら聞き間違いではなく完全に否定されていたらしい。嘘だろこの謎ミッション完全お前得でしかねえじゃんむしろ喜んでやらせてくださいって言うレベルじゃんなんなの嫌ですってなんなのなんでそんな完全拒否なの意味わかんないんだけど。

待て待て、一先ず落ち着いてもう一度状況確認だ。風呂上がり、いつも通りこいつの部屋でダラダラ過ごしてたら突然この見覚えのない出口も窓もドアも家具も何もない部屋に閉じ込められて、意味わかんないなにこれ心霊現象?とかって混乱してたら壁に一枚の紙が浮かんできて、それが謎ミッションすなわちここから出る方法が記された紙で、なんだじゃあ簡単に出れるじゃんよし来い黒田って言ったら拒否されて…………やべえ現状確認してみたけどやっぱり意味わからん辛い。

「えぇーーー……っと、黒田?黒田くん?」
「はい」
「あの紙に書かれている文章を答えよ」
「どちらかが相手の額にキスをすれば出口が現れます」
「うん」
「はい」
「どうぞ」
「嫌です」
「なんっっっでだよこの俺が珍しくキスしていいよって言ってあげてんだぞこれがどんだけ稀少なことかわかってんの?つかそれ以前にそうしないとこの意味わかんねえ部屋に閉じ込められっぱなしなんだぞ?分かったらさっさと」
「それでいいじゃないスか」
「……は?」
「キスしなきゃこのままずーっとここで二人きりってことでしょ?ならそれでいいっス、俺」
「なんにもよくねえんだけど?」

え、待て、ちょっと待て、今すっごい嫌な汗かいてる俺。だってこいつ明らかに本気だもん。目がマジだし真顔だし俺の前に座ったまま一切動く気配ないし。やばいこれリアルにピンチじゃね?なんでこんな唐突にヤンデレモード発動すんのやめてくれるかな笑えないじゃないですかヤダー…

だがしかし甘いな黒田。

「チッ…したくねえならしなくていいよ」
「はい」
「代わりに俺がするからなあ!」
「!」

はっはーバカめ!別にどっちがどっちにしなきゃダメだっつー指定はねえんだ、こいつがしねえなら俺がすればいいだけの話!めんどくせえし乗り気じゃねえけど一生こんな部屋に閉じ込められてるよりは全然マシだ!そうと決まればさっさと済ませて、と掴みかかろうとしたら思いっきり逃げられた。ええー。

「な、なんなの、そんなに閉じ込められたいの?怖いよ?今のお前すっげー怖いよ?」
「なんとでも言ってください俺はこっから出る気もあんたを出す気もないんで」
「ざっけんな出る!」
「させねえ!」
「くっ、じっとしろコラ!逃げんな!」
「い、や、で、す…!」

なんとか腕をつかんで無理矢理押し倒す。よしチャンス、と思えば両腕で顔を隠された。剥がそうにも馬鹿力が邪魔をして思うように動かせない。ああもうイラつくいい加減にしろよお前。

「黒田、悪ふざけもそこまでにしとけよ」
「ふざけてない。あんたこそ、さっさと諦めてここで俺とずっと一緒にいましょうよ」
「こんな風呂もトイレも食料もなんもねえ場所よりちゃんとした外の世界でなら考えてやる。だからさっさとキスさせろ」
「…外に出たら二人きりじゃなくなる」
「それでもちゃんと付き合ってるだろ」
「そういう問題じゃないんス」
「………腕どけろ」
「嫌です」
「頼むから、黒田」
「……そんなにどけてほしいですか」
「だからさっきから何度も言って」
「そんなにキスしたいですか、俺に」
「………………………」

ああ、そうか、やっとわかった。こいつ、それでこんな無駄に粘ってたのか…めんっっっどくせえええ…閉じ込めたいっつーのは口実で本来の目的は俺がこうして必死にキスしたがるっつー姿が見たかっただけなんだろう。なんなのこいつほんと疲れる。

「……おー、キスしたいから腕どけろ」
「しょうがないっスね…みょうじさんがそこまで言うならキスして【ガチャリ】あっ、はあ!?そんな一瞬…!」

あからさまなやれやれ顔をしながら腕をどけた黒田の前髪をかき上げ軽くキスするとようやくドアらしきものが現れた。とりあえず一安心だ。こんな気味悪い部屋なんかさっさと出てしまえと、未だに倒れたままの黒田を放置してドアの方へ向かった。



「……閉じ込めたかったのは本気なんスけどね」




@月光



「っ、痛い、膝当たってる」
「仕方ねえだろ、ちょっとくらい我慢しろよ」

そう言って舌打ちした雪成だが、舌打ちしたいのは俺の方だ。けど、感情のまま苛立ちをぶつけたってこの状況はなんら変わらない。どうしてこんなことになってしまったんだろうかと、すぐそこにある雪成の顔を睨み返した。

気付けば、こうなっていた。説明しようにも本当にそうとしか言えない。気付けばここにいて、そこには雪成もいて、そうして二人してぎゅうぎゅう詰めにされている。俺たち二人が入って身動きが取れなくなるほど狭い部屋。天井も低く少し背伸びすれば簡単に頭が届くだろう。まあそれすらも出来ないくらいに密着させられているのだけれど。

普段から顔を合わせるのも嫌なくらいなのに、そんな雪成とこんな至近距離で閉じ込められて、まるで地獄だ。気分が悪くなってきた。さっき見つけた小さなタイマーらしきものを見る限り、あと25分ほどこの状況を耐えなければいけないらしい。最悪だ。本当に。辛うじて動かせる顔も、両脇に雪成の腕があるからさほど自由がきくわけでもない。けど、ずっと真正面からこいつの顔を見続けるのも苦痛でしかないからと少しずらした。

「…おい」
「なに」
「どこ見てんだよ」
「…どこでもいいだろ」
「じゃあこっち見ろよ」
「いやだ」
「なんで」
「気分悪くなる」
「……はっ。そんなこと言うんだ、お前」

カチン、なんて音が聞こえてきた気がするが関係ない。本当のことだ。そう思い雪成の言葉を無視していたら、不意に窮屈感が増した。

「なっ、動くなって!」
「ちょっと動いただけだろ」
「ちょっとって…うあっ!?」

俺の体を壁に押さえつけるように動いた雪成。押し返すため体に力を入れようとしたら、雪成は俺の首もとに顔を埋めてきた。ぺろりと舐められたのは気のせいじゃない。

「おい!お前ふざ…ぅ、ゆ、きなり…」
「なんらよ、ん、おにいひゃん」
「やめ、ろ、馬鹿…!」
「…じゃあこっち見ろよ」

舐めたかと思えば吸い付かれて、噛まれて、もう、信じられない。なに考えてるんだこいつ。やっと顔を上げたかと思えば先程と同じ台詞が返ってきた。

「なあって」
「っ、やめ」
「変な意地張ってねえで、こっち向けってば」
「ん、やぁ…!」
「首も耳も嫌なんだろ?俺の方見たらやめてやるよ」

じゅぷじゅぷじゅるじゅる。いやだいやだいやだ。気持ち悪い。直に聞こえてくる音にも感触にも耐えられなくて、仕方なく雪成の方へ顔を向けた。

「…あー…やっぱ、無理」

いつか見たようなとろんと蕩けた目とかち合う。ああ、しまった、失敗した。そう思ってももう遅くて

「もうちょい我慢するつもりだったんだけどな」

はあ、と熱い息がかかって、次の瞬間にはもう唇に噛みつかれていた。ちらりと見えたタイマーの時間は残り20分。どこの誰だか知らないが、俺をこの状況に陥れた誰かと目の前で俺の口内を貪る愚弟に叫び散らしてやりたい。くたばれこのクソ野郎、って。






荒北とマネ主は壁に「どちらかが3日間幼児化してしまう薬を飲めば出口が現れます ※脱出したあとも効果は持続します」と書いた紙が張られた部屋に閉じ込められました。

荒北と無口は突然薄暗い部屋に閉じ込められました。襲い掛かってくるゾンビを10体倒せば脱出できます。

黒田とノーマルは壁に「どちらかが相手の額にキスをすれば出口が現れます」と書いた紙が張られた部屋に閉じ込められました。

黒田と兄主は突然密着したまま身動きもとれないような狭い部屋に閉じ込められました。壁にはタイマーが見えます。30分経過すると脱出できます。
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161008

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