「チワース」
「チワースじゃない!また遅刻だぞ真波!」
「えへへ、すいません泉田さん。今日はちゃーんと直行するつもりだったんですけど気付いたらまた登っちゃってて」
「真波は本当に山が好きだよね〜」

週明けからまた遅刻しちゃったなあ。その場しのぎの言い訳とかじゃなくて、今日はほんっとうにちゃんと部室に直行するつもりだったんだ。でも例のごとく気付いたらゼーハー言いながら山登ってたんだからビックリだよね。ぽやぽや笑う葦木場さんにそうなんですーと笑い返したらまた泉田さんに怒られちゃった。

「ったく……気楽でいいよなお前は」
「え?」
「こっちはてんやわんやだっつーのに…」

頭を掻きながらそう言った黒田さんは、はあ、と大きなため息をついた。

「ああ、荒北さんですか?」
「はは、さすがに真波も気付いてるか…」
「さっきも外で会ったんですけど、すごかったですね。自転車にもたれながらずーっと学校の方見てましたよ」
「チッ…そんな気になるんならもっと攻めてきゃいいのに…」
「あー…荒北さん、絶対俺のせいでさらに弱気に…」
「葦木場さんなにかしたんですか?」
「う、まあ、ちょっと…」
「ちょっとじゃねえだろほぼとどめ刺してただろ」
「ひどいよユキちゃん!わざとじゃないって言ってるのに!」
「そう言うユキはどうだったんだい?今日話をしに行ったんだろう?」
「……ダメだった。なんつーか、あいつ、もう諦めてるっつーか…」

途端にしーんと静まり返った部室。泉田さんも黒田さんも葦木場さんも、みんなとっても難しい顔をしていた。

うーん、俺、やだな。こういう雰囲気、好きくない。

「……思ったんですけど、」
「ん?」
「いっそのこと今みなさんが頑張ってること、荒北さんにぶっちゃけちゃうってのはどうですか?」
「!」

多分荒北さんに気を使ってさりげなくさりげなく進めてるんだろうけど、正直あの人本人が動かなきゃ意味ないだろうし、ずっと解決しないままだと思うんだよね。まああのなよなよしい荒北さんが直接話せると思ってるのかって言われればそれまでだけど。

「お前なあ、そう簡単に言うけど…」
「でも最終的にはあの二人で話し合わせなきゃいけないんでしょ?だったらみょうじさんだけじゃなく荒北さんも刺激した方がいいと思うんだけどなあ俺」
「…たしかに真波が言うことも一理ある。しかし、後輩である僕たちからそのことをずけずけと伝えては失礼だろう」
「東堂さんたちから言ってもらえれば一番いいんだけど、まだ様子見てる感じだから何とも言えないよね」
「んー、そういうもんですかあ…」

先輩たちも先輩たちでいろいろと考えてるんだな…って当たり前か。だからこそここまで大事になってきたんだから。

でも、俺だけなのかな。ちょっと慎重すぎなんじゃないかって思ってるの。当事者じゃないからそう思っちゃうのかな。けど同じく当事者じゃない皆さんは俺と違ってすごくすごく慎重に事を進めようとしてる。全部荒北さんを思ってのことなんだっていうのはわかってる。けどなあ、なーんか気になるなあ。

「……わかりました。早く元に戻るといいですね、あの人たち」
「そうだな。そろそろ戻ってくれねえと、監督にまでどやされるぞあの人」
「今は福富さんが自ら任せてほしいと直訴したから免れてるみたいだけどね」
「怒ったら怖そうだよね、監督」

話はそこで一区切りついて、そのまま皆さんはそれぞれ外に出たりトレーニングルームへ向かったりとバラバラになった。

先輩たちは慎重に慎重に進めようとしてる。それなら、

「俺はあえて逆の作戦でやってみよーっと」

意外と効果あるかもしれないし。とりあえず、やれることはいろいろやってみないとだよね。




160517