「どうだ、荒北の様子は」
「いーや、ダメだ。昨日と何ら変わってねえよ」

ロッカールームのベンチの上で三角座りしている靖友は昨日のまんまだった。暗い顔してぶつぶつとなにか呟いているがよく聞こえない。まあ、あれだけ大好きだったみょうじくんに急にフラれたんだもんな、そりゃあショックだよな。しかも理由がわからずフラれたらしいし。話を聞こうにももはやそれすら申し訳なるくらいに号泣していた靖友。一日明ければなにかしら変化はあるだろうと思えばそのまんまだったことに尽八と一緒に苦笑いした。

「…荒北はまだあの調子か」
「お、寿一」
「声を掛けようにも、なんと言えばいいのかもわからんのでな。せめて昨日より状態がマシになっていればよかったのだが…」

あとから入ってきた寿一はそうかとだけ返すと、そういえば、と小声で続けた。

「今日、あのみょうじと話をしてきた」
「なに!?」
「会ったのか?」
「ああ。だが、おかしなことを言っていた」
「おかしなこと?」

靖友には聞こえないよう、三人で寄り固まって話す。話って、そりゃまたすごいな。ナイスアイデアだけど突然三年(しかも寿一)に話しかけられて怖がらなかったかな。内容が内容だけに話しづらそうだけど、おかしなことってなんだ?

「あの男、荒北のことをなにもわかっていなかったぞ」
「「………????」」

尽八と顔を見合わせ首をかしげる。

「…ど、どういうことだ?」
「そのままの意味だ」
「余計わからんぞ…あ、ちょ、待てフク!詳しく聞かせろ!」

なんだろう、どこか怒った様子の寿一はそれだけ告げると自分のロッカーへ行ってしまった。多分、寿一なりに靖友とみょうじくんとの仲を取り持とうとしたかったんだろうな。初対面だったろうに、あの寿一がよくそこまでしようと思えたものだと感動すらした。

けど、寿一でさえ動かすくらい、靖友の想いは強かったから。



『俺、おかしくなったかもしんねェ』


顔を真っ赤にしてそう相談してきた時にはみんなしてポカンとしてたっけなあ。らしくなく最初から弱腰で恥ずかしがってばかりで、それでも付き合えた時も、付き合ってからも、靖友は本当に幸せそうだった。前までなら照れ隠しでぶちギレてたんじゃねえのかってくらいに茶化されても、本当に嬉しそうに笑うから、みんな心から祝福してたんだ。



「…食うか、靖友」
「……辛い」
「そうか」
「…新開とか、」
「ん?」
「新開とか、東堂みてーに顔が整ってりゃさァ、フラれなかったのかな、俺」
「…みょうじくんは顔目当てでおめさんと付き合ってたのか?」
「………」

ぎゅう、と膝を強く抱きしめた靖友。弱々しい声と姿に、こちらまで辛くなってくる。

「…とりあえず、そろそろ着替えろよ。練習始まるぜ?」
「………んー…」

返事をしたくせにピクリとも動かない。こりゃ重症だなあと思いつつ、俺も明日少し探ってみるかと決心した。靖友と別れた理由をちゃんと知りたいし、あわよくば復縁してほしい。たとえそれが無理だとしても、なんとか靖友が元通りになるように俺たちで頑張らねえと。後輩たちだって心配しちまうだろうしな。

ついに寿一に引きずられる形で動いた靖友を見送り、俺もロッカーを開けた。





160510