「明日デートしましょうってみょうじに誘われたァ〜!」

練習開始前、ロッカールームで荒北が天にも昇るような浮かれた声で嬉しそうにそう言っていたのは昨日のことだった。そうかよかったな荒北本当によかったなと涙ぐみながら肩を叩いた東堂。今度こそ手ェぐらい繋げよとエールを送った新開。後輩たちも本当に嬉しそうに拍手喝采を送るほどの盛り上がりだった。もちろん今回が初めてのデートではない。荒北は件のみょうじとやらとデートやご飯、または少し話せたという小さな出来事が起こるとすぐに部内に報告し、その度に全員総出で祝うというのが日常茶飯事になっていたのだ。未だにそのみょうじという男との面識はなかったのだが、やつに恋をした荒北は性格や考え方がそれ以前の頃より180度は変わったように思える。想いが通じ合い恋人同士になった日に泣きながら部室に入ってきたのはいい思い出だ。たしか東堂ももらい泣きをしていたような。

「つーことでさァ、その、言いにくいんだけどォ…」
「荒北」
「!」
「無駄な遠慮などするな。お前は普段から努力を怠らず走っている。明日は何も気にせずに楽しんでこい」
「っ、福チャァン…!」

アンガトネェ!

そう叫んだ荒北は、たしかに幸せそうだった。だのに、











「もうそろそろ帰ってる頃かな、靖友」
「だろうな。さすがに手を繋ぐ…いや、キスの一つくらいしてきてもおかしくないが」
「どうだろうなあ。未だに名前すら気軽に呼べねえみたいだぜ、あいつ」
「だが、荒北は強い!」
「フクの言う通りだ。やつも立派な男なのだからな、半年も付き合えばさすがに…」

練習後、恐らくデートから帰ってきているであろう荒北から今日の土産話でも聞きに行こうといつもの三人でやつの部屋へ向かった。デートの日はいつもその日ののろけ話や進展などを聞くのがお決まりになっていたからだ。聞く側である東堂たちはもちろん、荒北本人も自分から言いたそうにしている。なので今までも特に大きな問題はなく、今日もいつものように和気藹々とした時間を過ごすつもりだった。

「入るぞ荒北ー。どうだったのだ今日、は…」
「ファーストキスは奪えたか靖と…」
「…………む?」

部屋に入ると、そこはカーテンが閉めきられた上に電気もつけられていないので真っ暗だった。東堂がえ、え、と困惑しながら電気をつけると、ベッドのすみで三角座りをしている荒北が。顔はとてつもなく暗く、目元が赤くなっている。これにはさすがの新開までもが困惑していた。

これは、おかしい。明らかにおかしい。異常事態である。ただならぬ様子に、最悪のケースが頭を過った。

「あ……荒北…?」
「…………た…」
「え」
「………みょうじに…フラれた…」
「「「!!」」」

瞬間、スー…っと涙を流した荒北。

「……俺、なんか嫌なことしたのかなァ…」
「そ、そそ、そんなことはないはずだ!恐らく何かの間違いでは…!」
「最後さァ、顔も見ずに走ってってさァ…俺本当は、最初、から…っ、ぎらわれ、てたのがなァ…!」
「落ち着け靖友!ほらティッシュ!」
「うっ、おれ、おれだけだったのかなァ、ずぎだったの…っ」
「…荒北……」

ぐずぐずと泣きながら言葉を漏らす荒北が、相手にフラれるようなことをする男ではないことはここにいる俺たちがよくわかっている。もしくは相手にも何かしら思うところがあったのかもしれない。

とにかく、このままではいけない。顔を埋めた荒北に気付かれないよう、三人で目を合わせ頷き合った。





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