(あれ、)

休憩中、何の気なしに立ち寄ろうとした近くのコンビニ。そういやドリンク切れそうだったし買っとくかァと、ポケットに突っ込んでる小銭入れを探りながら歩いているとコンビニが見えてきたのだが、何やら様子がおかしい。



「おい、シカトぶっこいてんじゃねーぞ!」
「っ!」
「じゃあ金はもういいよ。代わりになんか適当にジュース買ってきてくんね?」
「炭酸な炭酸。あとなんか食いもんも」
「ははっ!パシりパシり」
「ヨロシク〜」

自動ドアの前で繰り広げられていたのは、テレビとかでよく見るような、いわゆるパシリだとかカツアゲだとか、そういう光景だった。めんどくせえな他所でやれよと思いながら通りすぎようとした、が、足が止まる。

(……え、あ、みょうじ…!?)

あれ、うそ、みょうじだ。本物だ。こんな近くで見るの初めてだから誰かわかんなかった。え、え、部活はもう終わったのか?今日は早めに切り上げたのか美術部。つーかなんでみょうじがカツアゲされてんだ意味わかんねえぶっ飛ばしてやろうかこいつら……いやダメだ福チャンに怒られるし何よりみょうじに怖がられるし引かれる。それだけは阻止しねえと。けどどうやって助けりゃいいんだ。知り合い装うったってまだ喋ったことねえしな。いや俺だってそろそろ喋りたいとは思ってんだけどなんかこういざ話しかけようとすると声が詰まるっつーか手汗やべーっつーか喉カラカラっつーかまあぶっちゃけ緊張して上手く話せねえし遠目でくろべえのこと描いてるみょうじを見るのだけでも精一杯だしむしろこの近距離で立ってること自体なかなかハードル高ェし今多分すげえダセエ顔してんだろうな俺。いや、けど、マジで、どうする。相手に手は出せねえ。知り合いのフリも出来ねえ。つーか喋れねえ。それなら、

「ひっ、」

おもむろに俺よりもほっせえ手首を掴んだ。うっわ、さ、触っちまった。ほっせ。めちゃくちゃほせえ。ちゃんと飯食ってんのかよこいつ。あ、てか、しまった、手汗、ああでももうそんなこと言ってらんねえか。

驚いてこちらを見たみょうじ。こんな近くで、しかも真正面から顔見るのなんか初めてだから、直視できない。むり。むりむりぜったいむり。今絶対見られてるめっちゃ見られてる。

「あ?」
「なんだよ、お前」

みょうじの後ろに立ってた俺の存在には気付いてたようだがまさか介入するとは思ってなかったのだろう。威嚇するように声をあげたチンピラ共を睨み付ける。もうここまで来たら自棄だ。

「……走んぞ」
「えっ、あっ!?」

困惑した声を出したみょうじを連れて、全力で走った。

「は!?」
「おいコラァ!テメー!」











走って走ってようやくたどり着いた学校。さすがにここまで来りゃもう大丈夫だろ、と後ろを振り返る、と、

「はあ、はあ、げほっ…!」
「………」
「はあっ、あ、あの、」

汗だくで、息乱して、顔真っ赤にして、う、上目遣…か、かわ、いや、やめろ、叫ぶな俺絶対耐えろ死ぬ気で耐えろ落ち着け落ち着け落ち着け!し、深呼吸だ!深呼吸しろ!目ェ合わせんな!みょうじじゃなくて……おおおおあんないいところに綺麗な花が咲いてるあの花見とけよ俺絶対正面見んなよ俺。つーか手ェ掴んだまんまだ離さないと。離して、それで、えー、なんだ、どうする、このまま黙ってたら困らせるだけだ。なにか、なにか気の利いた一言、

「おい」
「ひゃいっ!?」
「…帰り、今度は気ィ付けろヨ」
「!」

よ、よし、どうだ、無難だろ。てかもうダメだ限界だ離れねえといろいろやべえ心臓うるせえ早く練習戻ろうああけど無愛想すぎたかなもうちょい笑顔で話せばよかったかなでも新開とか東堂みてえな爽やかスマイルなんか出来ねえしこれ以上一緒にいたら絶対ボロ出してバレちまうしああああああもうとにかく逃げろ俺えええええええ!!














「む、遅かったではないか荒き…えっ、な、なんだどうした!?なぜ泣いているのだ!!おい!だ、大丈夫か!?何があった!?また例のみょうじくんか!?どっちだ!?嬉し泣きか!?やらかし泣きか!?」
「よしよし落ち着け靖友。はい、息吸ってー、吐いてー、そうそうゆっくりゆっくり…」





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