昼休み。中庭にあるベンチで二人して並んで座り、お昼ごはんを食べている。今日は実にいい天気である、なんて空を見上げるフリをして隣に座る荒北先輩を盗み見た。

幸せそうにメロンパンを頬張るこの人との交際を再開してから、約一週間が経った。以前付き合った時とはいろんな意味で変化したおれたち。今ではおれも自信をもって愛してもらっていると断言できる。できるんだけども。

「…みょうじ」
「あ、はい。なんですか?」
「一口いる?」
「…い…いいんですか?」
「ん」

ん、と差し出されたメロンパン。もちろん、当然のように先ほど荒北先輩がかじっていたところが向けられている。

「……い、いただき、ます…」

荒北先輩の顔を窺うように、そーっと口を近付け、少しだけかじらせていただいた。うん、美味しい。それだけで終わりならいいんだけど、問題はこのあとだった。

「……間接キスしちゃったネ」
「そ……そう、ですね…」
「………」

そんな顔真っ赤にするんだったらわざわざ言うなよ!とは言えないし、そのくせニヤニヤしてんなよ!とも言えない。メロンパンだけではなかった。紙パックのジュース、ペットボトルの水、アイスクリーム、カレーライス、ハンバーグなどなど、今までもいろんな食べ物飲み物を共有してきた。そして毎回照れ臭そうにそう言ってのけるのだ。自分がそう仕向けてるくせに。

断っておくけど、別にそれらの行為が嫌なわけではない。あの荒北先輩から恋人らしい行動を…!?と少しの照れと少しの嬉しさがあったからだ。だがしかし、それだけなのである。なんと、これだけ無駄にアピールしてくるくせに、直接キスしようとはしてこないのである!これがおれとしては今一番気になるところなのである!

別れてからまた再び付き合うまでの間にそれとなーくなんとなーくうっすらではあるがもしかしたら…と思っていたことが、的中してしまった。

「…あの、さァ、みょうじ」
「は、はい」
「………き、」
「き?」
「…き……黄緑色ってさァやっぱ黄色と緑色混ぜて作んのォ!?」
「……そうですよ…」

な ん の 話 だ !話題すり替えるにしてももっと他になかったのか!黄緑色て!キスでしょ!?キスじゃないの!?この流れでいったらそれしかないんじゃないの!?

そう、荒北先輩は、ビビりで小心者の自覚があるおれでさえ思わずつっこんでしまいそうになるくらい、女々しかった。最初に付き合ってた頃はもっとクールというか硬派な感じなのかなあとか思ってたけど騙された。ただ表に出さなかっただけなんだ。というか女々しいから出せなかったんだ。しかしもう一度付き合うきっかけになった話し合いの時にお互いの気持ちを素直にぶつけ合った結果、こうして素の姿を見せてくれるようになったんだろう。それは非常に嬉しい。しかしそれにしたって女々しすぎる。ギャップが激しすぎる。

けど、

「……はあ…」

こうやっておれにバレないようこっそりと残念そうなため息をつくところも含めて、全部全部おれの前だからこそ見せてくれる姿なんだろうなと思うと、それはそれで嬉しいと思ってしまうのだった。







(今日も一日平和だなあ…)





160505