「なあ、金持ってねえ?」

マ ン ガ か よ とツッコミをいれそうになったおれは決して悪くないと思うんだ。

「…も…持ってない、です…」
「はあ?んなわけねえだろ」
「だったらなんでコンビニ来てんだよ」
「デデデデデスヨネーアハハ……」
「なに笑ってんだコラ」
「アッ、スミマセ…!」

部活からの帰り道。何の気なしに立ち寄ったコンビニでザ・不良な集団に絡まれてしまった。おれ今リアルカツアゲされてるんだけど。コンビニの前でリアルカツアゲされてるんだけど。なにこれ。やばい。こわい。ちょっと古くね?とか思ってすいませんでしたでもほんとに今はほとんど手持ちが…!

しかしそんなことを直接伝えられるはずもなく口をつぐんで立ち尽くしていたら、座っていた不良の一人が立ち上がってすごい剣幕で睨み付けてきた。あ、これマジでやばいかも。

「おい、シカトぶっこいてんじゃねーぞ!」
「っ!」
「じゃあ金はもういいよ。代わりになんか適当にジュース買ってきてくんね?」
「炭酸な炭酸。あとなんか食いもんも」
「ははっ!パシりパシり」
「ヨロシク〜」

おら、と体を押される。そんな無茶苦茶な話があってたまるかと逃げ出したくなったけど、面白いくらい足が震えてるし、口も開けない。せめて相手が一人ならと思ったけど、多分一人だろうとこんな厳つい顔したやつに怒鳴られたら逆らえないんだろうな。ほんと情けない。

ため息を押し殺し、震える足に鞭を打ってコンビニの入り口へ向かった。

「ひっ、」

と思ったら急に後ろから手首を掴まれた。なんだまだ何かあるのかと振り向けば、そこにいたのは不良ではなく

「あ?」
「なんだよ、お前」

何故か汗だくになっておれを睨み付けている、見知らぬ不良なんかよりもずっとずっと怖い荒北先輩が立っていたのだ。

(えっ、ちょっ、なんで!?なんでこの人がこんなとこにいるの!?なんでこんな汗だく…あ、あれか、練習中だったのかな…いやいやいやいやそれにしたってなんでここにいるの!?おれに何の用!?もしかしてこの人たちと繋がりがあったとか言う!?俺の分も買ってこいよとか言う!?なにこの最悪の状況!おれが何したって言うんだよ!)

あーだこーだと疑問やら文句やらが脳内で飛び交う中、ゆっくり口を開いた荒北先輩。多分おれの顔、真っ青すぎてすごいことになってると思う。

「……走んぞ」
「えっ、あっ!?」

もうほんとついてない、と笑顔すら浮かべそうだった。その時だ、荒北先輩がおれの手を引いて走り出したのは。

「は!?」
「おいコラァ!テメー!」

驚くおれや怒鳴る不良なんか知らんぷり。走って走って、最初は慌てて追いかけていた不良もいつの間にか諦めていた。




どこまで走るんだってくらい走って、やがて先輩は立ち止まった。学校の正門前まで来てたんだ。おれをつれてよくここまで逃げ切れたな…というか、なんだ、この状況は。

「はあ、はあ、げほっ…!」
「………」
「はあっ、あ、あの、」

息も絶え絶えだけど、でも、どうしてだろう。恐らくだけど、これ、おれのこと、助けてくれたんだよな?実際に助かったんだしそこに関しては疑う理由はないんだけど、助けてくれた理由がわからない。この人のことは前から知ってたけど、多分初対面のはずだ。同じ学校とはいえ、見ず知らずの生徒を助けてくれるほど優しい人だなんて、今まで聞いてきたいろんな噂からは到底考えられない。なにが目的でこんなことを?

(まっ、まさか、助けてやったんだから金寄越せもしくはなんか奢れとか言われるんじゃ)
「おい」
「ひゃいっ!?」
「…帰り、今度は気ィ付けろヨ」
「!」

さっき睨み付けていた時とは打ってかわって、ちらりともこちらを見ずにそう言った荒北先輩は、またどこかへと走っていってしまった。練習に戻ったのだろうか。というより、えーっと?なんだ?今、おれあの人になんて言われ…

「…き、気を付けろ、って」

…まさかとは思うけど、心配してくれてるって、こと?うそ、あの荒北先輩が?元ヤンで落ち着いたとはいえ今もキレるとヤバイで有名なあの荒北先輩が?話したこともないようなおれみたいなやつを助けてくれただけでなく、帰り道の心配までしてくれた?

(…おれが聞いてる話とか噂と、全然違う)

驚きと、あとなんだ、胸の辺りがじんわり熱くなっていくのがわかった。なんだこれ。

あの時コンビニに立ち寄るまでは一生関わることはないだろうと思っていたような存在であるあの人が、その瞬間からただの大恩人になって、いつしかかけがえのない大切な人になっていくだなんて。この時のおれは微塵にも思っていなかった。




160505