2 「ああ、そうなんだ。ごめんな、母さん」 ベラベラと思ってもないことを並べ立てる口を褒めたくなった。夏休みも冬休みも、春休みだってそうだ。極力家に帰りたくなかった俺は部活だなんだと理由をつけて寮に留まっていた。まあ部活動なんか入ってすらいないんだけど。それでも両親は俺が頑張っているのならと深く追求せず快く受け入れてくれている。優しい両親でよかった。さすがにお盆や年末年始には顔見せのために帰ったけど、本当にそれだけだ。 出来るだけ家にいたくない。だから寮生活を希望した。おかげで高校に入ってからは本当に快適な生活を送ることが出来ている。 『いいのよ。頑張ってね、なまえ』 「ああ。じゃあ…」 『あっ、そうだ』 「?」 『もうそっちに着いたのかしら?』 「着いた?なにが?」 『あら、まだだったのね。ならいいわ』 また電話するのよ。最後にそう言って電話を切った母さん。着いたって、なんのことだ?またなにか送ってくれたんだろうか。けどそれなら事前にそのことを伝えてくるだろう。最後に聞こえた意味深な笑い声はなんだったんだ? 「黒田くん!いるかい?」 「!」 寮長だ。母さんが言ってた荷物が届いたんだろう。一体どんなものを送ってくれたのやら。 「はい。なんですか、」 ドアを開けて、息が詰まった。 「彼、来年度の新入生で寮見学に来ててね。聞けば君のことを知ってたからさ」 知ってたも何も、そいつは 「よう」 高さの変わらない目線で、皮肉るような笑みを浮かべて俺を見るこいつは 「正月以来だな、なまえ」 紛れもない、俺の弟だった。 「…なん、で、お前、」 聞いてない。そんなの、なんにも聞いてない。箱学に入りたいだなんて話も、箱学に入学するだなんて話も、何も聞いてない。目に見えて動揺しているであろう俺を見て、さらにその笑みが深くなった。 「なんでって、お前がいるからに決まってんだろ」 「っ、」 「ビビらせようと思って母さんたちには話さないでくれって頼んでたんだ。また二年間、おんなじ学校だぜ。嬉しいだろ?」 そうか、母さんのあの言葉はこいつのことだったんだ。母さんも父さんもご近所さんたちも中学の頃の友達もみんなみんな、俺たちがただの仲良し兄弟だって思ってる。でも、それは大きな間違いだ。俺たちが仲良しだなんて、なんの冗談だよと言ってやりたい。 俺が寮生活を望んだのは、嘘をついてまで実家に戻ることを拒んでいたのは、全部こいつが原因だ。俺は中学二年からの二年間をぶち壊したこいつが、嫌いで嫌いで仕方なかったから。 あんなに大好きだった野球を嫌いになったのは、心からの自慢だったのに疎ましく感じるようになったのは、俺が作り上げてきたすべてを奪ったこいつのせいだ。エースの座も、信頼も、期待も、自信も、プライドも、なにもかも。なのに。 「また仲良くしようぜ、オニイチャン」 お前はまた懲りずに俺からすべてを奪うつもりなのか、雪成。 160226 |