23 (※キャラ同士の暴力表現があります注意) 数分もしないうちにすやすやと寝息を立て始めたなまえにまた口角が上がるのがわかった。 「ハッ、効果抜群だな」 ちょっとしたコネで手に入れた無味無臭の即効性睡眠薬は今日も大活躍だった。これで何度目だったか。恐らく三日以上は使い続けてる。目覚めれば眠らせて、また目覚めればまた眠らせて。なまえは何度も夢の中。黒田の夢を見たっつーのは今回が初めてだったが、特に危惧する必要はねえだろう。もう少し落ち着いたら、こいつを連れてどこか遠くに身を隠そうか、なんて思ってたり。 そんな馬鹿げた夢物語を想像していると、しばらく静かだったドアノブがまたガタガタと騒がしく音を立て始めた。しつけえなあと舌打ちをしてから、乱暴にドアを開ける。そのせいで顔だか体だかにドアがぶつかっちまったけど、そんなボロボロじゃ今さら痛みなんざ感じねえだろ? 「なあ、黒田ァ」 「……えせよ…」 「しつけーんだヨさっきから。ダァイスキな兄ちゃんはおねんね中だっつってんだろォ?」 「…返、せ」 「ハア?返せだァ?いつあいつがオメーのもんになったんだよ、バァカ」 「ぐっ、あ…!」 ヒューヒューか細い息を漏らして這いつくばってる黒田の腹を蹴飛ばした。あまりにもしつこいから気絶するまでぶん殴ってやったのに、よく今まで誰にも気付かれずにここにいれたなと思う。まあ見つかったところで口外出来やしないだろう。目的であるなまえに最も近いのは俺だって分かってるからだ。都合が悪くなりゃどうにかされるとでも思ってるんだろう。そんなつもりは毛頭ないし、するとしても二人で逃げるだけだが、勝手に勘違いしてくれている方が俺としても動きやすい。 蹴飛ばした瞬間は痛みに顔を歪めていたくせに、すぐにまたクソ生意気な顔して俺を睨み付けてきやがる。いい度胸してんよお前、マジで。ここまでやられて、それでもまだ奪い返そうってかァ? 「その根性だきゃ認めてやんヨ。けどもう諦めな。会えたところでオメーになんか見向きもしねえ」 「…んなもん…会ってみなきゃ、わかんねえでしょ…っ」 「……都合よく解釈すんのは勝手だ、好きにしな」 こっちにゃ会わせる気もねえしな。そう思ってドアを閉めようとしたが、運悪く人が通りやがった。 「えっ、く、黒田くん!?その傷は…!」 「悪ィ寮長、こいつチャリからぶっ転けたらしいんだわ。医務室まで連れてってやってくんねえ?」 「あ、あら、荒北くん…わかった!行こうか黒田くん!」 適当に誤魔化して、そこから黒田を引き剥がすことに成功した。通った相手が寮長で助かったぜ。チャリ部の連中だったらめんどくせえことになってたからな。 じゃあな黒田、と今度こそドアを閉めようとした。 「…あ…き、たさん」 「!」 「……絶対……返して、もらいますから…」 寮長に肩を借りてフラフラ立ち上がった黒田は確かにそう言った。血だらけで、息も荒くて、体も微かに震えてるくせに、目だけは今にも俺を殺してやるってくらいに鋭かった。 「…残念。無理だヨ」 それでもオメーはなまえには届かねえ。ドアが閉まるバタンという音が静かに響いた。 160423 |