1 日陰とか街灯も何もない夜道とか、暗い場所が好きだった。髪の色が暗闇に紛れて隠されるから。反対に、太陽の光とか月光とかが射し込むような、明るい場所は嫌いだった。光が髪に反射して憎たらしいほど綺麗に映ってしまうから。 「はよ、黒田」 ついでにもう一つ。自分の名前も嫌いだった。 「おはよう、荒北くん」 名前、というか名字だけど。嫌でも反応してしまい、思わず寄りそうになった眉間のシワを無理矢理抑え込むように笑顔を作った。クラスメートの荒北くんはほんの数ヵ月前まで誰も近付かないようないわゆるヤンキーだったのに、今ではすっかり中学の頃のようなスポーツマンに戻っている。良いことだ。俺なんかと違って輝いてる。あの頃みたいに。 中学の頃から、今思えば弱小も弱小だった野球部のエースを担っていた俺にとって、近隣校にいた荒北くんは憧れだった。よく練習試合を行っていたからその頃から面識のあった俺たち。いずれ大きな大会でも活躍して、高校に入ったら甲子園目指して頑張ろうなんて約束したのはいい思い出だ。先にその約束を破ってしまった俺が微笑ましく語るのもおかしな話だが。 二年で野球部をやめてからは一切交流が途絶えていたのに、同じ高校に入学していて、しかも同じクラスだった。最初はあまりの豹変ぶりに話しかけられなかったけど、荒北くんの方から話しかけてきてくれたのが嬉しかった。まだこんな俺と関わってくれるんだと。 「今日で一年も最後だな」 「だなァ」 「来年はクラス離れるかな」 「離れたらどうする?」 「どうもしないだろ。まあすれ違ったら挨拶くらいはしてくれ」 「ふーん、そんだけかヨ」 唇を尖らせた荒北くんは、自分の席についた俺の前の席に座って向かい合わせになった。まだ何か言いたげな顔をしてる。 「…なんだ、その顔」 「べっつにィ?」 「別にって顔、してないけど」 「……二年も同じクラスだったらいいなァって」 「…そうだな。俺もそうだと嬉しい」 薄く笑ってそう返すと、ほんとかよ、と返ってきた。嘘ではない。来年も荒北くんと同じクラスなら、またわざわざ新しいクラスだからと友達を作ろうとしなくても済むし。そう返せば怒られそうだから黙っておくけど。 換気のためにと開けられた窓から、肌寒い風が入ってくる。この一年は、中学の頃と違って楽しく穏やかな学校生活を送れていたと思う。二年になってもそうなるだろうと、この時の俺はなんにも疑うことなく、ただ予鈴が鳴るのを待っていた。 160224 |