あいつのことが好きな絶滅危惧種系女子


こないだくるみちゃんと昼飯を食べた時一緒にいた女の子(桜ちゃんというらしい)に、行きたいところがあるのだと誘われた。よっしゃデートのお誘いキタコレェとか思ってたのに、目的地に着いた俺のテンションが下がりに下がりまくってこれから二度と上がりそうにないことが確定した。

キャーキャーと飛び交う黄色い歓声。たくさんの女の子達。それが俺に向けられているものなら大歓迎だったのだが。なぜ、よりにもよって、こんなところに俺を連れてきたのだろうか、桜ちゃんよ。



「「「東堂様ーーー!!!」」」

東堂って知ってんぞ女の子達の間でファンクラブまで結成されてるとかいう俺と同期の超美形男子だろ。しかも、俺の大っ嫌いな自転車競技部所属の、あの東堂だろ。

そう、何を隠そう俺は今あの憎きチャリ部の部活練習見学に付き合わされているのだ。これ何て罰ゲーム?

「ねえ桜ちゃん、俺やっぱり帰」
「ダメだよみょうじくん!みょうじくんがいなきゃ、私だけじゃ声かけられない…!」
「え、なにそれ、誰か狙ってんの?」
「う、うん……」

おっとこれは驚いた。この俺を出汁に目当ての男と絡もうとしていたとは…大人しそうな顔をしてこやつ、やりおる…だがしかし恋する乙女に罪はないしむしろ応援してやるのがイケてる男ってやつだ。ということで一刻もはやく帰りたいところだったが予定変更。一肌脱いでやりますかね。

けど、俺がいなきゃ声かけられないってことは俺の知り合いってことか?クソチャリ部で俺の知り合いっつったら荒北くらいしか……えっ、まさかの荒北目当て!?荒北推し!?そんな女の子がこの世に存在しているとは思わなかった。

「桜ちゃん…絶滅危惧種だったのか…」
「えっ?」
「いやごめん一人言…お、」

そうこうしているうちに前方からブサイクが接近中。俺を見るや否や自転車から降りてつかつかとこちらへやってくる。うわあすっげー顔してる。お前が次に発するのは間違いなくオメーなんでこんなとこいんだヨ、だ。絶対そうだ。

「テメーなんでこんなとこいんだヨ」
「うおおおニアピン」
「ハア?」
「いや俺だってこんなとこ土下座されたって来たくなかったけどさあ、ほれ」
「?」

面白いくらいに期待を裏切らなかった荒北に対してニヤニヤ顔を隠しもせずに晒しながら桜ちゃんを前に押し出してやった。我ながらとてもさりげなく接近させてやれたと思う。さあ桜ちゃんお目当ての荒北くんだぜ!バックには俺がついてる!好きなだけ喋るんだ!さあ!

……なんて思ったのに、まさかの無言。あれ?つか震えてね?え、ビビってる?そんなに緊張するの?そりゃ元ヤンだしガンつき悪いし口も悪いし態度も悪いし何より顔も悪いけどそんな顔真っ青にするほど緊張……いや緊張じゃねーなこれ普通にビビってるな。荒北も首傾げてるし。

(まさか荒北じゃなかったのか?)

だとしたら一体誰目当てで……



「あ!やっぱり!」
「!」
「やっと見に来てくれたんスねみょうじさん!」

どこか気まずい空気をぶっ飛ばすかの如く、とても嬉しそうな声が荒北の後ろから飛んできた。見なくてもわかる。「く」から始まって「り」で終わる俺の天敵だ。普段なら考える間もなくUターンして姿を隠していたが今回ばかりはよくやった黒田!荒北も桜ちゃんもびっくりしてる!このままなあなあにしてさっさとここからおさらばしねえと!

「いつから見てたんですか!?」
「ついさっきだ。非常に残念ながらお前の走りは見れてねえんだごめんな?」
「あんたのそんな嬉しそうな顔初めて見ました」
「嬉しそうな訳あるかよお前の走りを見れてねえってのにさあ〜ほんと残念だわ見たかったわ〜」
「ならもう一周してきますから待っててくださいね!」
「えっ、ごめん俺もう帰るから…」
「黒田くん!」
「「!」」

叫んだのは俺でももちろん荒北でもない。まさかの桜ちゃん。

え、ちょっと待てまさか、

「あの、私、見てるから!頑張ってね!」
「あ、あざす……」
「…………」

う、うわああああああああああああああああああ目の前で少女漫画にありがちな一コマ見せつけられてるんですけど。桜ちゃん顔真っ赤だし。黒田はポカンとしてるけど、これ、あれだよな、間違いなくあれだよな。お目当てってまさかの黒田かよ。さすがの荒北も察したのだろう、思わず俺と顔を見合わせ口をパクパクしていた。

そうかまさか黒田に片想いを……ん?待てよ?このまま桜ちゃんが黒田と上手くいけば……やばいもしかしなくても黒田から俺へのロックオンが外れて俺も黒田も桜ちゃんまでもがハッピーになれる未来しか見えない。良いことしかない。いくら今は俺のことが好きでも一度女の子と付き合っちまえば男なんかへの興味も失せるだろう。これが、ハッピーエンド…!

「……頑張れよ桜ちゃん」
「え!」
「ちょ、みょうじさん俺のこと応援しに来てくれたんじゃなかったんスか!?」
「あーはいはい頑張れよ黒田」
「すっげー棒読み!頑張ります!」

張り切ってそう叫んだ黒田は笑顔だった。

(あ。あの顔は)

いつかの日に部室へ顔出した時に見せた時と同じ笑顔だ。そうか、自転車、ほんとに好きなんだなあいつ。

(そういう顔だけ見てると普通なのにねえ)

残念ながら普段のキモいイメージの方が強い俺にはあいつにときめく理由がわからないけど、桜ちゃんのことは全力でサポートさせていただくことを誓った。何より俺のためだしな!絶対くっつけてやる!



160205