情報漏洩もストーカーも犯罪だからな


「オメーさァ、チャリ部入んねえ?」
「直訳で死ねと?」

珍しく真剣な顔で話があると言われたかと思えば何を言ってやがるんだこいつは。チャリ部に?入れと?これ以上俺のストレスメーターぶっ壊そうとするのやめてくんない?遠回しに死ねって言われてるとしか思えないんだけど。

「あのな荒北、たしかにこの学校の唯一の友達である俺がいれば寂しくないのかも知れねえけど俺にも譲れねえものがあってだな…」
「ざっけんな断るにしても言い方あるだろ!別にオメー以外にも友達いるわボケが!」
「ふーんへーえほーお?マジ?じゃあ言ってみろよ友達。言っとくけど部活仲間と猫は含みませんよ〜あーらーきーたーくうーーん?」
「ウッゼもういーよやっぱり入んな来んな近付くな!」
「100億円あげるから来いっつっても断る自信あるぜ俺」

いや待てよ、そんな大金もらえるなら少し立ち寄るくらいしてしまうかもしれない。まあそんな話現実ではあり得ないしな。つまり今後俺が自らあの忌まわしきチャリ部へ近付くことなど断固としてないから安心してくれ荒北。

「つか急になんだよ。入りたくない理由しかないのに入るわけねーじゃん」
「もう限界なんだヨォあいつの相手すんの…」
「あいつ?」
「黒田」
「クロダ…?」
「オメーそれ本人には絶対してやんなよ泣くから」

頭をガシガシ掻きながらため息をついた荒北。もう限界だなんてそんなのこっちの台詞だしなんなら俺の代わりにもっと相手してやってほしいところなんだけど。いいぞもっとやれって感じなんだけど。そんな限界だって泣き言吐かれるほど俺のところに来なくなったわけでもねえしな。多分あいつの世界は俺と自転車を中心に回ってるって言っても過言じゃないし自意識過剰じゃないと思う。俺にとっちゃ迷惑なことこの上ないけどな!

「授業中って発言してるんですかーとか体育って得意なんですかーとかやっぱりモテるんですかーとか字ィ綺麗なんですかーとか居眠りとかするんですかーとかもししてたら隠し撮りしといてくださいーとかもうマジであいつ頭おかしーヨ毎日毎日おんなじこと聞きやがって!」
「頭おかしい件に関しては同意しかしないけど隠し撮りってなんだおいお前まさか撮ってないよなおい」
「撮るわけねーだろんなもん撮るくらいなら怒られんの覚悟で黒板撮るわ」
「こっ、黒板以下か…それはそれで傷付く…」
「…そういやお前あいつのメアド知ってんの?」
「知りたくもないし教えたくもな…おい待てよお前まさか俺のメアド売ってねーよな?売ってねーよな!?」
「売ってねーヨ。売ってたら今頃意味わかんねーくらいメールきてんだろ」
「そ、想像しただけで恐ろしい…!」
「…けどそうか、あいつ教えてやるっつったらいくら出すかな…」
「てめーこの野郎!個人情報漏洩は立派な犯罪行為だぞ!」

これ以上に無いほど悪どい笑顔を浮かべる荒北に冷や汗が。やべーよこいつなら本気でやりかねないどうしよう。メアドこっそり変えちまうか、黒田からなにかしらメールが来た瞬間拒否リストにぶっ込むか…後者が一番楽だな、そうしよう。けどそれならこいつが売っちまう前に直接教えてやろう。俺のお陰でこいつが儲かるのは非常に癪だし。ついでにこいつのメアドも拒否リストに加えてやろうかチクショーめ。

「なんの話してるんスか」
「…もう突然の登場に驚かなくなった自分がこえーよ俺…」
「おう黒田、ちょうどいいところに来たなァ。オメーこいつのメアドやるっつったらいくらで買うヨ」
「え」
「あっ、てめ、待てコラ!!おい黒田、早まるな、そんな汚ねえ手に引っ掛かるな!そんなやつに金払わなくても俺が直々に教えてやる!」
「はあ!?テメーさっきと言ってること違うじゃねーか!」
「うるせえこの人でなし!ブス!外道!歯茎!ブス!」
「上等だその無駄に綺麗な顔面もおんなじようにブッサイクにしてやんよコラァ!!」
「いや、俺みょうじさんのメアドくらい知ってますけど」


「「は?」」


「なんなら電話番号も知ってますけど」
「は、ちょ、え、おま、荒北お前やりやがったな!!」
「ちげーよ俺じゃねーよ!!」
「じゃあなんで知ってんの!?」
「企業秘密です」
「ドヤ顔捻り潰すぞお前!!」
「いよいよ本物だなこいつ…つか逆に知ってんならなんでメールも電話もしねーんだヨ。俺に付きまとわなくても直接聞きゃいいじゃねーか」
「いざ連絡しようと思ったら緊張して出来なかったんですよ」
「お前今さらそんなピュア発言しても俺の中の評価は変わらずミジンコ以下だからな」
「それにもし連絡しまくって着拒とかされたら俺立ち直れねえし」
「はあ?普段どんだけ拒否してもしつこいくせによく言えたなお前…」
「なんか変なとこでズレてるよなこいつ」

結局俺の連絡先の出所とか入手方法を知ることはできなかったがそれ以上追求するのも逆に怖かったのでやめておいた。しかし黒田本人も言っていた通り俺すぐ着信拒否するくせあるから〜と適当に誤魔化したのでアホみたいにたくさんメールやら着信が来ることはないだろう。

と思っていた俺が甘かった。


【こんばんは、黒田です。まだ起きてますか?今日もみょうじさんとたくさんお話できて嬉しかったです。でも今日だけに限らずいつもそうなんですけど、もうちょっと荒北さんとの距離感考えてもらっていいですか?仲良しなのは分かってるんですけどやっぱり俺としては面白くないしムカつくしイライラするし妬きすぎておかしくなるんで。今後は気を付けてくださいね。あと今日また食堂で丼物食べてましたよね?たまにはもっと違うの食べた方がいいと思います。みょうじさんせっかくスタイルいいのに偏食ばっかりしてたら丸くなりますよ。まあふくよかなみょうじさんも可愛らしいと思いますけど。あと】
「なげーしこえーよただのホラーだよなんなんだよこいつ…!!」

思わずケータイを放り投げてしまった午後11時。




160202