子犬は好きだけど変態はノーサンキュー


「誘ってくれてありがとねーくるみちゃん」
「こっちこそ来てくれてありがと!」
「私もお邪魔するねみょうじくん」
「んーん、お邪魔しにきたの俺だし気にしないで」

同じクラスのくるみちゃんが昼飯に誘ってくれた。いやほんとモテる男って辛いっスわぁと荒北に鼻で笑いながら言い逃げしてきた。あの時の形相といったらもう傑作だったぜ。俺がビビりだったらチビってたねあれは。

何はともあれ可愛い女子二人と一緒に食堂でランチタイムという勝ち組の俺はおぼんに乗ったカツ丼を持って二人の向かいの席に腰を下ろした。そう、ここまではよかったのだ。パーフェクトだった。なのに。

「誰の許可を得て俺の横に座ってるのかな黒田くんは…」
「やだなあみょうじさん、そんな他人行儀な呼び方やめてくださいよ」
「お前なんか俺の中ではほぼ他人だから」
「雪成ショック」
「黙れそのオムライスにでかでかとシネって書いてやろうか」
「みょうじさんから貰えるものはなんでも貰いますむしろくれ」
「ケチャップじゃなくてお前の血で書いてやるよ覚悟しろクソ白髪」

もちろんここまで超ウルトラハイパー小声でお送りしておりますみょうじです。なんなの?なんでなのなんで平然と俺の隣確保してんの?見てわかんねーのかな今俺女の子と飯食おうとしてたよね?遠慮とか気まずさとかそういうの一切なしなの?つかなんでここにいるってわかった?

「荒北さんからみょうじが女子と食堂行ってたぞってメール来たんで」

あんの裏切り者マジで許さねえ寮に帰ったらあいつの部屋のドアに赤札貼りまくっておこう。もうお前は友達じゃねえただのストレス発散機として扱ってやる。

「え、なまえくん…ひょっとして」
「!」
「後輩くん?」
「あ、あー、後輩は後輩だけど…」
「そうなんだ!さすがなまえくん!」
「へ」
「後輩にまで慕われてるんだねー」
「でもみょうじくんの性格とか考えたら納得かも…良い先輩って感じで!」
「……そっ、そうなんだよ〜俺後輩にもモテちゃってさーいやあほんとここまでくると恥ずかしいよはははははは」

き、きたあああああああああああああああそうか逆転の発想だ!!俺にとってはいつもの精神的ダメージでしかないアプローチも彼女たちの目には黒田がただ先輩大好き(人として)にしか見えてないんだつまりここで後輩大事にしてますアピールしておけばさらに俺の株が上がる!!はっはっは残念だったな黒田お前の無駄な積極アピールは俺がフル活用させてもらうとするぜ!!ちらりと隣を見ると「しまった!」みたいな顔をして俺を見ていたざまあみやがれええええええええええ!!

「実はこいつ中学の時からの後輩でさあ」
「えっ、そうなんだー。高校も一緒なんてすごいね」
「そういえばよくうちのクラスにまで会いに来てるよね?」
「すっごい俺になついててさー、なんかもう小型犬みたいなポジションだわ」
「あははっ、かわいー!」

よかった、なんとか乗りきれそうだ。まあ黒田も黒田でみょうじさんのためなら従順な子犬として黙ってますとか思ってそうだし大丈夫だろ。つかこいつの思考回路を想像できてしまう自分が憎い。

さて、そろそろ食べねーとカツ丼冷めちまうな…とカツを一切れつかんで口に運ぼうとした。

「みょうじさん」
「んあ?」
「そのカツ美味しそうですね」
「え、あー、美味いと思うけど…っ!!」

やばい今俺の中の危険レーダーがけたたましく音を立てて反応した。まずいぞこの流れはもしや…!

「一口ください」

おわあああああああああああああああやっぱりそう来やがったかてめええええええええええ信じられないなんつー悪い顔してやがんだこいつ!最低だ!確信犯だ!

怒りによる振動でカツもぷるぷると震える。ふざけんな誰がやるかと叫べば一気に空気ぶち壊れるしなんかケチっぽいイメージがついてしまう。だからってこのまま黙って食わせてやるのも癪だ。

「…食いてえならやるよ。好きなの取れ」
「スプーンだから取りにくいです今みょうじさんがつかんでるやつそのままください」
「箸ならそこに大量にあるだろそれ使えよ」
「洗い物増えるから今みょうじさんがつかんでるやつそのままください」
「…別に気にしねーからもう素手で取れよ」
「手が汚れるから嫌です今みょうじさんがつかんでるやつそのままください」
「ぐっ…こ、の…!!」

ああ言えばこう言いやがって!つか洗い物増えるからってなんで急に食堂側の視点になって答えてんだよお前絶対そんなの気にしたことねーだろ!

なんとか回避したかったがもうダメだ、さすがにくるみちゃんたちが不審がってる。くそ、お前マジで覚えとけよ黒田…!

「…わかったよ、口開けろ」
「やり直しで」
「はあ!?」
「あーんしてやるから、に言い直してください」
「……あ……あーんしてやるから口開けろ」
「あーん」

オラァこのボケェ!と心の中で叫びながら黒田の口にカツを突っ込んだ。頬染めんなキモい。しかもすぐ引っこ抜こうとしたのにこいつ、噛んでる!口んなかで舐めてる!箸!どこのド変態だてめえ!箸先ヌメヌメなんですけど!?

「なまえくん優しいねー」
「あーんとかしてもらえるんだ…後輩くん羨ましい…!」
「はは、はははははは…」

あははうふふと笑いながら俺たちを見つめる彼女たちに苦笑いしか生まれなかった。こんなにカオスな状況なのに優しいとか羨ましいとかいうコメント出てくるのがすげー。ちなみにさっき使った箸はうっかり手を滑らせ落としてしまったので新しい箸を使ってカツ丼をいただきました。



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