不運もここまで来ると感動すら覚える


俺は今、自らの足では決して近寄らないだろうと思っていた忌々しい部活動の部室前に立っている。同じクラスでしかも結構つるんでるからって俺に課題を押し付けてきた担任か、それとも課題があることを知ってか知らずか颯爽と部活の練習へ向かった荒北か。果たして俺はいったいどちらを恨むべきなのだろうか。

「課題のこと知ってて逃げたんなら悩むことなく荒北なんだけどな…けどそんなセコいことするかなあいつ…」

寮で渡せばいいんだろうけど急ぎだかなんだかですぐ届けろとか無茶ぶりしてきた担任も十分許せねえけどな。俺の休息時間を返せ。

とりあえずこんなとこで立ち止まってても仕方ない。非常に、本当に非常に不本意だが入るか。寒いし。課題渡したらすぐ帰る。さっさと帰る。別に荒北本人に会わなくてもいいんだ。一番に目についた人に渡してもらえばいい。よし、行くぞ俺。

「……すみませ」
「みょうじさん!?」
「お前嘘だろ」
「みょうじさん!本物だ!みょうじさんが会いに来てくれた!みょうじさん!」
「うるさいやめろ騒ぐな目立つやめろ口閉じろガキかお前は!」
「むぐっ」

最悪だ。大事なことなのでもう一度言う。最悪だ。本当に最悪だ。なんでよりにもよってお前なんだよ。お前にさえ会わなければ誰でもよかったのになんでよりにもよってお約束みたいな感じで出てきたんだよ俺の不運パワーはいつまで続くんだふざけんなよチクショー。

慌てて口を押さえ込んだが時すでに遅し。何人かが奇妙なものを見るような目でこっちを見ている。やめろ!そんな目で見るな!おかしいのはこいつだけなんだ信じてくれ!いやしかし翌々考えればこいつが俺のことを好きだということは部員の皆様方は知ってるんだよな知ってる上で誰も止めに来ないんだよな忘れてたここ敵しかいねーじゃねえか早く逃げねえと。

「いいか離すから叫ぶなよ次叫んだら今度は首絞めるからな」
(コクコク)
「…はあ……もう怒鳴るのも疲れるから簡単に説明するぞ。これ荒北に渡しといてくれ」
「えっ、俺に会いに来てくれたんじゃないんですか!?」
「ちげーよ荒北だよ。ほらこれ。課題」
「チッ…了解っス」
「お前今の舌打ち絶対チクるからな」
「でも俺嬉しいです。みょうじさんからのお願いって初めてだから」
「本来誰でもよかったんだからな勘違いすんなよ」
「これが噂のツンデレ…」
「違う」

よしミッションコンプリート!帰ろう!よく頑張った俺!ご褒美にコンビニでコンポタ買って帰ろう!

「あ、みょうじさん!」
「あ?」
「今度はちゃんと走ってるとこ見に来てくださいよ!」

その時ふと立ち止まったのは、言葉が遅れたのは、初めて見るような純粋な笑顔でそう言っていたからだ。いつもの真剣な顔とかうっとりした顔とかではなく、本当に、ただの笑顔。

「……気ィ向いたらな」
「はい!」

なんだ、普通に年相応の顔だって出来んじゃねえか。よく見るあからさまに好きです好きですってアピールしてくる顔より何万倍もマシだぞ。まあそんなこと絶対言ってやらねえけど。




160129