良い耳鼻科知ってるから紹介してやる


「……………えっ」

俺は一瞬我が目を疑った。今日は部屋でゴロゴロするぞーっと下駄箱を開けるとそこには一枚の可愛らしい封筒が。あんの、クソ一年、今日だけで一度のみならず二度もこの俺に果たし状を……よーしお前の気持ちはよくわかった。

「その喧嘩買ってやるよオラァ!!……あ?」

一思いに破り捨ててやろうと力を込めた時、ちらりと見えた宛名。「なまえ君へ」と書かれたその字は男のものとは思えないほど可愛い丸字だった。それにあいつは俺のことを名字で呼んでいる。ということは、

「…えっ、マジ?ガチのやつ?マジで!?」

あっぶねええええええええええ危うく紙吹雪にするところだった!少しだけついてしまった皺を撫でて綺麗にし、そっと封筒を開ける。中にはシンプルに「屋上で待ってる」の文字。はいはい屋上ですね了解今すぐ飛んでくぜ顔も名前も知らないハニーちゃん。まあ俺に好意を持ってくれてるんだかわいこちゃんに違いないだろう。

さっきまで授業と黒田への対応で疲れきっていたのが嘘だったかのようにテンションを上げて屋上へ向かった。









「…あっ!なまえ、くん…」
「あー、もしかして、手紙くれた子?」
「うん、そう、あたし」

ビュウビュウと冷たい風が吹く屋上で待っていたのは、黒髪ボブの清楚系女子だった。確か隣のクラスの…そうだ神崎さんだ。やっべ顔あっけー超可愛い目ェ逸らされた超可愛い女の子万歳。モジモジと恥ずかしそうに立ち尽くす彼女に一歩一歩近付いていく。

「来てくれて、ありがとう…」
「そりゃ来るさ、あんな可愛い字で待ってるなんて書かれてちゃ行かない方がおかしい」
「っ、」

カシャン、とフェンスが音を立てた。はい壁ドン成功しましたーはいもう顔がトマトみたいになってますーはい超可愛いですごっさんですー。小5辺りからずっとずっと言われ続けてきたんだ、自分の顔には少なからず自信がある。それにこの子は俺のことが好きなんだから少し余裕を見せたって平気だろう。

俺になにか用?と話を促せば、震える唇が目についた。これはちょっと攻めすぎたか?あんまこういうの慣れてないのかもしれないな、もう少し気を楽にさせてやろう。

「俺別に予定入ってないし、ゆっくりでいいから」

そう言ってフェンスと自分の体で挟み撃ちにしていた神崎さんから離れる。すると、顔をさらに真っ赤にさせて目を見開いた。え、今のそんなに照れるとこだったか?

首をかしげると、小さく声を漏らして困ったように眉を下げた。なんだ、俺の後ろ見て、る、

「…………………一応聞いてやるお前何してんの」
「分からないんスか?」
「お前が俺にぶちのめされてえってことしか分かんねえ」
「そういう趣味はないんですけど…そこまで言うならしょうがないっスね」
「俺にもねえよいい加減その都合良くできてる耳治してもらってこい」

険しい顔して俺たちを睨み付けていたのは黒田だった。なんでお前が怒ってんだよ怒りたいのはこっちだ。つかもうほとんどキレてるぞ俺。だがしかしいつものように喚き散らしてしまうわけにはいかない。神崎さんが怖がっちまうしイメージダウンも免れない。なのでこの会話も神崎さんには聞こえないよう小さな声で行われている。

そんな俺の些細な気遣いに気付いたらしい。黒田の目付きがまた鋭くなった。面倒事になる前に彼女だけでも先に帰すか。

「ごめん神崎さん、ちょっと話聞けねえや」
「あ、ううん!気にしないで…」
「この埋め合わせは明日するからさ。ほんとごめんね」
「っ、わ、わかった!じゃ、また明日、なまえくん」
「ん、バイバイ」

ふわりと笑顔を作って帰るよう促す。困惑しつつも彼女も察したんだろう。とりあえず明日は昼飯にでも誘っとこうか。

神崎さんが完全に屋上から出ていったのを確認してから、すぐ笑顔を崩した。ドアから黒田へ視線を戻すと、相変わらずブスッとした顔をして俺を見ている。そんな顔される筋合いはない。そうやって拗ねて可愛いのは女の子だけだお前がやったところで俺のウザダルポイントが貯まってくだけだからないい加減気付けよ。

「……で?この落とし前どうつけてくれんだお前」
「見損ないました…女相手だとそんな甘い顔と声で誘惑するだなんて…このスケコマシ…!」
「スケッ…今時そんな言葉使うやついねえぞチョイスおかしいだろ…」
「でもそんなみょうじさんも好きです俺にも壁ドンしてください」
「なんなのお前ほとんど最初から見てたの!?キモい通り越して怖ェよ!!」
「さあ!」
「さあじゃねえよさっさと部活行ってこい馬鹿野郎!!」

フェンスに凭れて手を広げて待つ黒田にそう叫んで屋上を飛び出した。これ以上あのアホに付き合ってられるか!アホが移るわ!




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