愛の形が重いし歪だし分かりづらい


「お前後輩にどういう教育してんだよそろそろストレスで禿げそうなんだけど俺」
「禿げろ」
「なんで!?なんでそんなこと真顔で言うわけ!?血も涙もないなお前が代わりに禿げろその無駄に多い下まつげごと禿げろ」
「下まつげ禿げろってなんだヨ」
「うるせえそして俺の質問に答えろ」
「俺教育係じゃねーから俺に言われても知らねーヨ」
「じゃあ今日から教育係志願してあのクソ銀髪なんとかしろ」
「みょうじチャンは野郎にもモテて羨ましいナァ」
「ぶっ殺すぞ」

同じクラスの荒北に日頃のお悩み相談(という名のストレス発散)を行ってみるがてんで効果がなさそうだ。マジでその女子顔負けの下まつげ一本一本引き抜いていってやりたい。そうすれば少しくらいはこのイライラも解消されるだろうに。

荒北はあの黒田と同じチャリ部だ。しかも聞くところによるとあいつ部内でも堂々と俺のこと愛してる宣言してやがるらしい。どこで聞いたかって?目の前の細目がニヤニヤしながら伝えに来たに決まってる。あの時ほど本気でこいつの前髪さらに短くしてやろうと思ったことはない。そんなこんなで荒北どころかチャリ部にまで浸透しているあいつのストーカー行為だが、なぜか止めてくれるという常識人がチャリ部には存在していなかった。黒田だけじゃなくて部全体が頭おかしいんじゃねーのっつったら荒北にガチでキレられたからそれ以降は発言に気を付けてるけどやっぱりおかしいって。止めるどころか楽しんでるもんなあいつら。悪魔だよ人の皮を被った悪魔だよ。

「でェ?今日はなにされたのォ?」
「下駄箱に似顔絵付きラブレターが突っ込まれてた」
「ぶっ」
「なんだよこれ…隅っこに俺の名前書いてなかったらマジで誰なのかわかんなかったぞ…つか誰っていうか何なのかすらわかんなかった…てっきり宇宙人とか幽霊とかそういう得体の知れない物かと…」
「何言ってんの、この目のとことかそっくりじゃん」
「それ目じゃねーだろ絶対鼻か口だろ多分」
「モテる男は辛いネェ…え、それラブレター?」
「ヤベーだろこれ10枚セットだぞちゃんと上から下までギッチリ…一行目で諦めたわ」
「一行読んでやるだけでも顔破綻させて喜ぶと思うヨあいつ」
「マジで喜びそうだから嫌んなる」

似顔絵(黒田談)とラブレターを見てケタケタ笑う荒北は楽しそうで何よりだが俺は1ミクロンも楽しくないしウザいしキモいしダルいし疲れた。一行目から俺の名前三回は出てきたんだけど。残り九枚強の間に何百回出てくるんだ俺の名前。ゲシュタルト崩壊しそう。

明らかに好かれてるのは痛いほど分かってる。毎日のように直接言葉にして伝えてくるしな。多分冗談じゃないってのも分かってる。けど、残念ながら、俺は、女の子が好きなのである。男なんて興味ないのである。論外なのである。男を愛するくらいなら潔く死を選ぶよ俺は。断言するね。

「…みょうじ」
「あ?」
「見てんぞ」
「あやのちゃん?」
「早く行ってやれヨ」
「あやのちゃん照れ屋だから話しかけたらすぐ赤くなっちゃうんだよなあ」
「おい早くしねーとこっち来んぞ」
「マジで?あやのちゃん今日は積極的だな」
「あやのちゃんって誰スか」
「お呼びでないから帰れ」
「浮気ですか」
「付き合った覚えない帰れ」
「荒北さん俺言いましたよね本気だって」
「なんでそっち行った!?せめてあやのちゃんに嫉妬してくんない!?」
「っとにメンドクセーなオメー…」

とりあえずもう少し絵描くの上手くなってから出直してこい。





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