誰か早くタイムマシン完成させてくれ


もしも戻れるのならば、あの日あの時あの瞬間に戻りたい。そしてそこにいる自分に言ってやりたい。そいつはヤバいから放っておけと。





「おはようございますみょうじさん」
「お前なんでドアの前にいんの」
「おはようございますみょうじさん」
「いや聞けよ無視すんなよお前」
「おはようございますみょうじさん」
「お前、なんで、ドアの前に、いんの?」
「おはようございますみょうじさん」
「………………………はよ…」
「こないだ正門前で待ってたらやめてって言われたんで今日からは部屋の前で待つことにしました」
「お前めんっどくせーな!!てかやめてほしいの捉え方間違ってるから!!距離遠いからやめてって言ったんじゃねーよ待ち伏せ自体やめろっつってんだよ!!」
「隠さなくてもわかってますって…一分一秒でも早く俺の顔が見たいからでしょ?」
「バカじゃねーの!?」

あー今日も学校だダリーと思いながら部屋のドア開けてこの世でもっとも面倒だと思ってる相手の顔があったらそれだけでさらにやる気なくなる。一つ下の後輩であるこいつ、黒田雪成はさっきも言った通り俺がこの世でもっとも面倒だと思ってる相手だ。この、可愛さの、欠片もない、ドヤ顔をしてくる、こいつがな!

きっかけは本当に些細なことだった。学校から寮への帰り道、自転車と一緒にぶっ倒れてたこいつに軽く声を掛けただけ。気絶とまではいかずとも汗だくんなって息荒くして明らかに疲労でぶっ倒れてるこいつに大丈夫かよと、無理すんなよと、まるで挨拶をするようにそう言っただけだった。本当にそれだけなんだ。それに俺じゃなくても目の前でそんな状況になってたら誰だって声掛けるよな?普通そうだよな?だから俺はその時人生で一番運が悪かったんじゃないかと思ってる。だから巡り合ってしまったんだと。

それから度々会うことが増えて、話すことが増えて、聞けば同中だったんだーとかそういや一つ下にスポーツ万能マンがいるとかなんとか噂になってたなあそうなんだお前があの黒田だったのかあとかそういうくだらない話するようなただの先輩後輩で終わっていれば俺だってここまで蔑ろな態度は取らなかっただろう。

「あ、みょうじさんシャンプー変えたでしょ」
「は、はあ?変えてねえよナチュラルにキモい発言すんな!」
「いーや変えてる。前のが好きです俺」
「お前の好みなんか知るか!好きなもん使って何が悪…はっ!」
「ほらやっぱり変えてる」
「謀ったなこの卑怯者め!」
「けどまあみょうじさんを構成するものは全部愛せる自信あるんで気にしないでください」
「シャンプーの件については気にしないけどお前のそういうところが気になって仕方ないからもうやめてマジでキモいからほんとやめて」
「っ、みょうじさんも俺のこと、気にしてくれてるんですか…!?」
「うわあすごい都合のいいことしか拾わないその耳の仕組みすっごく気になる〜」
「いだだだだだだだ」

ポッと顔を赤くして恥ずかしがる可愛さの「か」の字もないクソ後輩の耳をぎゅうううと引っ張ってやった。おいやめろみょうじさんが触ってくれてるとか言うな聞こえてるやめろキモい。

こいつの態度にん?と疑問を持ち始めたのは知り合ってすぐのことだった。やたらと話す時の距離が近い。やたらとボティタッチしてくる。やたらと教室やら部屋まで会いに来る。やたらと引っ付きたがる。やたらと甘えた目で見てきやがる。若干引きつつ冗談で俺のこと好きすぎだろっつったら違います愛してますって真顔で斜め上の返しされた時の衝撃と言ったらもう…

なぜ先輩後輩ではなく、求愛者と被害者の関係になってしまったのか。

「つかお前朝練は?早く行けよ一刻も早く俺の視界から消えてくれよ」
「なんでそんな寂しいこと言うんですか信じられない!朝練行く前に充電しに来ただけです!」
「なんで俺がおかしいみたいなことになってんの!?つか充電ってなんなの俺の何で充電しようとしてんの!?」
「みょうじさんが[雪成頑張れっ☆]て言ってくれるまで朝練行けません」
「よしわかったもう二度と行くなそして退部処分を受けてしまえ」
「二度と行くなって…あれっスね、意外と、独占欲強い…」
「どんな勘違いしてんのお前」

ダメだこいつと話してても体力と時間の無駄だ。早く学校行こう。女の子と喋って回復しよう。

「あっ、みょうじさん!」

叫ぶ黒田を素通りして廊下を歩くと、後ろからパタパタと追いかけてくる足音が聞こえる。ほんと、これが可愛い後輩女子だったならどれだけよかっただろう。もしくはこいつからの好意がただの尊敬の念だとか感謝の念から来る好意だったならどれだけよかっただろう。

「いいか黒田」
「はい」
「もう何百回と言ったけど」
「はい」
「俺は女の子しか性的対象としか見れないから諦めろ」
「俺の愛は性別を越えます」
「お前の愛がそうでも俺のは違うっつってんだろこれも何百回と言ったぞ学習能力どこに捨てたんだお前」

そんな俺のあからさまに拒否を示す言葉なんてどこ吹く風で、今日もさも当然のように指を絡めてくるこいつの頭を一発殴ってから寮を出るのであった。





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