少女Sは理解できない


黒田くんを昼食に誘うことができた。声を掛けるのだけでも緊張して目を見れなくてドキドキしてた私と違って、黒田くんは簡単に返事をしてくれた。俺でいいならって。黒田くんじゃなきゃダメなんだよ。そう言えたらどれだけいいか。

その日はいつも以上に昼休みまでの時間が長く感じて、授業中も意識がふわふわしてて集中できなかった。はやく会いたいな。

(放課後、みょうじくんに報告しなきゃ)

もう彼は黒田くんを突き放したのだろうか。毎日のように彼に会いに行っていた黒田くんがパタリと二年校舎に来なくなったのはつい最近のことだ。やっと黒田くんも諦めたのかな。じゃあ私はその分頑張らなきゃ。そう思っていた私は、たしかに幸せだったのに。







「ごめん!おまたせ!」
「っス」

授業終了が遅くなってしまい、少し遅れてしまった。それでもちゃんと待っていてくれた黒田くんに嬉しくなる。彼はもう学食を頼んではいたが、まだお箸は置かれたままだった。

「私もすぐ買ってくるね!」

これ以上待たせるわけにはいかない、と財布片手に席から離れた。黒田くんはカツ丼だったから、私も同じのにしようかな。でも食べきれなかったら勿体無いし……

食券販売機の前で少し悩みながら、ちらりと黒田くんの方を見た。

(あれ?)

置いていたお箸を持って、カツを一切れ掴んでいた黒田くん。けど、それを食べることはなく、ただじーっと見つめているだけだった。何してるんだろう。何かついてたのかな。少し気になってその光景を見つめていると、カツを見つめていたその目がゆるりと細められた。頬を染めて、薄く口を開けて、カツを近付けていく。あれ、なんだか、既視感。それは思いの外すぐに思い出せた。同時に落としてしまった財布の音は、賑やかな食堂でも驚くほどよく聞こえた。

『あーん』

みょうじくんに、食べさせてもらってた時と、まったくおんなじ顔してる。彼もきっとあの時のことを思い出してるんだ。なんで?どうして?諦めたんじゃなかったの?拒否されたんじゃなかったの?だから最近会ってないんじゃなかったの?

(いつまで捕らえれば気が済むの?)

今はいない彼のことを思い出して泣きたくなった。




160215