心のオアシスは自室と屋上と保健室 今日は珍しく、ひっじょうに珍しくボッチ飯です。みょうじです。人少ないだろうなと思って来てみたらほんとに少なかったわ屋上。さっぶ。風さっぶ。でも太陽が照らしてくれてるおかげでまだ暖かい。気がする。 適当な場所に腰を下ろしてチョココロネとフルーツ牛乳を取り出す。パン食うの久しぶりだな。最近ずっと学食だったし。たまに食うと美味いんだよなこれ。 「いただきまー……あ、」 大きく口を開けてかぶりつこうとしたら、同じタイミングでドアが開いた。 「ここにいたんだね、探してたの」 「お〜桜ちゃんだ〜」 俺のこと探してたんだって、嬉しい。てへぺろ。まあどうせ黒田関係のことだろうけど。隣いい?と聞かれたので一つ返事で返すと静かに隣に座った桜ちゃん。なんだなんだ、今度は何があったんだ。誕生日プレゼントは喜んでもらえたってのはメールで聞いたし、メールが長時間続いたっていうのも昨日聞いた。またなにか他にも良いことがあったんだろうか。幸せお裾分けしてもらおうと思ったけど、なんか顔が暗い気がする。ハプニングか?トラブルか? 「……なに。なんかあったの?」 「………黒田くん、ね」 「うん」 「好きな人、いるみたいなの」 この時パンを吐き出さなかった俺を褒めてほしい。しかし表面上には出さなかっただけで内心は冷や汗ダバダバだし心臓バクバクだしでやばい。そうか俺やチャリ部を除いた外野にはただ先輩として慕ってるようにしか見えてねえのか。知らないんだ、なんにも。まあ知ってたら俺に相談なんかしないか。 さて、どう、返そう。それ実は俺なんだよね〜☆なんて言うわけにもいかないし気のせいだよなんて軽々しく言える立場でもない。難題過ぎるぞこれ。 「…そう、なんだ。なんでそう思ったの?」 「まあ、うん、気のせいかもしれないんだけどね、」 彼、私のことなんか全然見てないの。ドラマだとか少女漫画だとかでよく聞くようなセリフ。そりゃそうだあいつがそれこそ頭おかしいくらいに見続けてんのは俺だけなんだから。これが俺の勝手な妄想でただの自意識過剰ならどれだけよかっただろう。残念ながらこれはすべて事実なのだ。代われるのなら今すぐ喜んで代わってあげたいのに。 「…でも、そうだって決まった訳じゃないんでしょ?」 「…………」 「それに、もしそうだとしても付き合ってる訳じゃないんだし。頑張って振り向かせればいいんだよ。そりゃあ簡単なことじゃないけどさ、それでも頑張るってんなら俺はいくらでも協力するし」 「……そう、だよね…そうだよね、まだ確実だって決まったわけでもないのに、弱気になっちゃってた。ありがとうみょうじくん」 ようやく安心したように笑った桜ちゃんにホッとした。そうだよここで諦められたら俺が困る。なんとか桜ちゃんとくっつければ俺もあいつと離れやすくなるだろうし。まあもしくっつけられなかったとしても、今度こそ、決別する。絶対。 (ならどうしてこないだは言えなかったんだ) あいつがいないとこではこんなに強気になれるくせに、いざその場面が訪れるとなにも言えずじまい。ダサすぎるにもほどがある。 「……ねえ桜ちゃん。たまには俺の相談にも乗ってよ」 「え?」 もうほとんど自棄になっていたのかもしれない。 「実は結構前から女の子に言い寄られててさあ。何度断ってもしつこくってさあ。可愛いしいい子なんだけど、どうもそういう気持ちにはなれないんだ。だからちゃんと諦めてもらおうって思うんだけど、なかなか言えなくて」 どうして言えないのか、なんて。本当は理由なんてとっくに分かってたんだ。 「どうしてだろうね」 「……それは、」 「…………」 「それはきっと、みょうじくんが心のどこかで、嬉しいって思ってたからじゃないかな」 そうだ。全くもってその通りだった。所謂優越感ってやつだったんだ。自分だけにひたすらに注がれる好意が単純に嬉しかったんだ。見返りの必要ない愛情を受けてたから、それが楽で心地よかったから。いざそれを手放すとなると、せっかく自分だけのものだったのにと躊躇してしまったんだ。まあつまりは俺がただのクズだったってこと。あいつは純粋に慕ってくれてたのに、表面的にはウザがって否定して拒絶して、そのくせ内心どこかでいい気になってた。 「でも、それでもやっぱり気持ちに応えられないって思うなら、傷付けてでも諦めさせてあげた方が良いと思う。その子のためだと思う」 「……うん。俺もそう思うよ」 どこかすがるように、請うようにそう言った桜ちゃんは、本当は全部知ってるのかもしれない。 「ありがとね。先戻るわ」 少しかじっただけのチョココロネとまだストローも出してないフルーツ牛乳を袋にしまい、手を振りながら屋上を後にした。こうして自分の正直な気持ちと向き合ったのは久々かも。おかげで次に会うときにはちゃんと言えそうだ。つーかこれで言えなかったら今度こそ本当に桜ちゃんが諦めちまう。それは絶対にダメだ。だからって俺が話つけてあいつが完全に諦められるのかって言われればそうだと断言できる理由もない。 (……ああああああああああ) なんかごちゃごちゃ考えてたら気分悪くなってきた。授業出るのもめんどくせー。保健室でふて寝してくるとだけ打ったメールを荒北に送信しておいた。帰ったら口喧しくグダグダ言われるんだろうけど、なんだかんだで良いやつだし察してくれるだろう。ケータイを閉じて、教室とは真逆の方向にある保健室を目指して歩いた。 160212 |